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IT資産管理は「経営課題」 ツール依存を脱し、事業を伸ばすガバナンス術変わる情シス 2025秋 イベントレポート

日本の生産性低迷の一因は、IT資産の放置にある。事業継続を左右するリスクへの対処や体制構築など、IT資産の真価を引き出し、事業成長を加速させるための「統治の本質」を解説する。

» 2026年02月23日 07時00分 公開
[HubWorksキーマンズネット]

 日本の労働生産性が低迷する要因の一つに、IT投資の遅れとレガシーシステムの老朽化が挙げられる。現代のビジネスにおいて、IT資産は「ヒト、モノ、カネ」に並ぶ経営基盤であり、活用次第で事業成長も、深刻な情報漏えいリスクも招き寄せる。

 しかし、多くの企業では「ツールさえ導入すれば管理は万全」という誤解が根強く、IT部門の負担増と管理の形骸化を引き起こしている。IT資産管理はもはや事務作業ではなく、経営層が主導すべき「戦略的投資」だ。

 本記事は、IT資産管理を巡る「3つの誤解」を解き明かし、事業継続と競争力を左右する適切な実践プロセスを解説する。経営層とIT部門の認識のズレを解消し、IT資産の真価を引き出すための処方箋としてほしい。

本稿は、ITmediaが主催したオンラインセミナー「変わる情シス 2025秋」(2025年12月9日〜12日)で、IT資産管理評価認定協会(SAMAC)副理事長/クロスビート創業者の篠田仁太郎氏が「今こそ経営層に知ってほしいIT資産管理の重要性 事業継続と競争力を左右する『IT資産』の真価と統治」というテーマで講演した内容を編集部で再構成したものだ。

IT資産管理ツールが事業継続に欠かせない理由

篠田仁太郎氏

 IT資産管理評価認定協会(SAMAC)副理事長の篠田仁太郎氏は、講演の冒頭で、「IT資産管理ツールは業務を効率化し、コストを最適化し、事業を継続的に発展させるための必須ツール」と述べ、IT資産管理の重要性を強調した。

事業に欠かせないIT資産

 IT資産は経営に必要な「ヒト、モノ、カネ」に深く関わっている。ヒトの業務を代替、支援し、モノのデータ化や代替に活用でき、カネの好循環を実現させるためだ。

 このようなIT資産の重要性を裏付けるデータとして、篠田氏は、日本の労働生産性とICT投資の関係をまとめたデータを引用した(出典:JIPDECの調査「情報化投資と労働生産性の国際比較」、日本生産性本部の調査「労働生産性の国際比較2024」「労働生産性の国際比較2025」)。

 図1 日本の労働生産性とICT投資(出典:篠田氏の講演資料)

 「赤く塗りつぶされた項目は6カ国で最低の水準だ。また、赤字は6カ国で下位3カ国にある項目だ。日本の労働生産性成長率は、他の国と比較して著しく低い。直近20年における投資額も他国に大きく遅れている」

 日本の生産性成長率が低迷している理由には、1990年代以降の長期にわたって増強や改修が繰り返されてきたレガシーシステムの老朽化と複雑化、それに基づく保守および運用コストの増大などが挙げられる。設計図や仕様書が不十分でブラックボックス化しており、現状維持にコストがかかるために新規開発に当てる資金を捻出できずにいる。

 また、複数の部門や企業間で異なるシステムが長期間併存していることによる統合の難しさや、古い制度や慣行のしがらみ、リスクを回避する経営層の姿勢も生産性成長率の鈍化に追い打ちをかけている。

IT資産の利用リスク

 IT資産の重要性は、利用リスクの面からも強調できる。篠田氏によると、IT資産を利用するリスクは4つに分けられる。

 1つ目は人為的なミスや脆弱(ぜいじゃく)性、設定の不備によって発生する情報漏えいだ。2つ目はライセンス違反に基づく損害賠償のリスク。3つ目はBCP(事業継続計画)に影響を与えるサービス停止。そして4つ目が供給者依存とカスタマイズ負債に関連するリスクだ。

 「ITの導入をIT部門だけに任せていると、このようなリスクに対処できなくなる。ITに経営層のマネジメントが届いていないことこそ、生産性成長率の低迷およびリスク増大の原因だ」

IT資産管理の3つの誤解

 篠田氏は、多くの企業がIT資産管理を誤解しているとし、「IT資産管理の難しさ」「ツール導入だけで管理はできない」「IT資産管理人材の不足」の3点を挙げた。

 図2 IT資産管理の誤解(出典:篠田氏の講演資料)

IT資産管理の難しさ

 IT資産管理の難しさとして、まずデバイス管理の複雑化の影響が挙げられる。従業員が使用するデバイスが増加し、社内ネットワーク外での利用も増え、物理的な所在の把握が困難になっている。加えて、部門ごとに予算が分散し、IT部門が把握していないシャドーIT(PCやサーバ、SaaS、AIツール)の存在もIT資産管理を難しくしている。

 また、セキュリティ管理の負荷の高さも重要な観点だ。ソフトウェアを使用する際は脆弱性情報を常に把握し、適切なパッチ適用を継続して実施しなければならない。携帯性が向上したデバイスの紛失および盗難リスク、どこからでも社内システムにアクセスできる環境のコントロールもIT資産管理の難しさだ。

 さらに、ソフトウェア管理の素性把握も難しさにつながっている。ソフトウェアが有償かどうか、ライセンス管理がどこまで必要なのかを把握するための作業は膨大だ。その上で、各ソフトウェアの脆弱性情報を日々把握しなければならない。

 ライセンス管理には専門性が求められる。ベンダーごとの条件は複雑で、特に仮想環境やクラウド利用、移行時の規約については専門知識なしに正確に把握するのは難しい状況だ。

 そして、AIをはじめとする新しい仕組みへの適時対応もIT資産管理の難しさに直結する。篠田氏は「先端技術については、管理の難しさすら分からない状態だ」と強調した。IT資産は常に進化し、変化する。新しい技術の登場に合わせて管理の枠組みを変えなければならない場合もあるだろう。

ツール導入だけで管理はできない

 2つ目は、ツールを導入するだけでIT資産管理を実現できるという誤解だ。篠田氏はIT資産管理評価認定協会が実施したアンケートの結果を紹介した。

 図3 アンケート結果:インベントリーツールについて(出典:篠田氏の講演資料)

 インベントリツールを導入した目的が達成できているかどうかを調査したところ、達成度が最も高い項目でさえ36.0%という結果だった。

 そもそも全ての対象資産でツールが利用できるわけではない。ツールがインストールできない資産や、存在自体を認識できない資産が存在するためだ。また、ツールは全ての情報を自動で収集してくれるものではない。設置場所や利用者、利用目的、状態、資産の登録、ライセンスの割り当てなど、人が対応したり確認したりしなければならない内容が数多く存在する。さらに、ツールは本来の意味の「管理」までしてくれるものではない。IT資産管理のためには検証と是正を含めた対応が必要だが、ツールでこれらの作業は代替できない。

 「デバイスは管理者が想定する1.5倍あると思ってほしい。その中で社内ネットワークに常時接続されるデバイスは約6割で、利用ソフトウェアの種類は保有デバイスの1.5〜5倍だ。そして、ソフトウェアの脆弱性報告数は2025年11月時点で4万4000件に上る。これは2023年と比較して1.3倍に増えている」(篠田氏)

 適切なIT資産管理のためには、ルールや手続きなどの管理のための文書作成が求められる。その上で管理者を定期的に教育し、検証と是正を通じてIT資産の見直しを継続的に実施する。ツールを導入しただけではIT資産管理を実現できないのがよく分かるだろう。

IT資産管理人材の不足

 3つ目は、IT資産管理のための人材投入が不要だという誤解だ。

 IT資産管理評価認定協会が適切なIT資産管理のために必要な人数を調査したアンケートでは、従業員数が500人以下の組織であっても「管理には専任担当者2人が必要」とする回答が多かった。従業員数が500人超の組織の場合、回答者の多くは「専任担当者5人が必要」と考えている。

 「欧米ではセキュリティ担当やIT資産管理担当、デバイス管理担当、ライセンス管理担当といった専任者が各領域の業務に従事している。しかし、日本の場合は他の業務と一緒にIT部門に任せられている。『このツールを導入したら管理できますよ』という悪魔のささやきに担当者がだまされてしまう背景には人員不足の問題がある」(篠田氏)

適切なIT資産管理の方法

 続けて篠田氏は、リスクアセスメントとIT資産管理の取り組み例を紹介した。

リスクアセスメント

 篠田氏によると、IT資産管理の本質は、事業運営上のリスクへの対処だという。そのためにはリスクを把握し、許容範囲に収める必要がある。同氏は、IT資産のリスクアセスメントの流れを解説した。

 図4 IT資産のリスクアセスメント(出典:篠田氏の講演資料)

 リスクアセスメントによってIT資産管理の対象となる組織と資産が決定され、また管理レベルが定められる。その上で現状を把握し、管理プロセスを策定し、運用を検証する。

IT資産管理の取り組みの例

 リスクアセスメントをふまえて、IT資産管理は次のような流れで実践する。

 図5 IT資産管理の見直しの例(出典:篠田氏の講演資料)

 リスクアセスメントの方向性を定める上で管理目的の設定は重要だ。その上で、リスクアセスメントを実施し、理想の状態から逆算して管理目標を定め、現状把握に入っていく。

 「現状把握は根気のいる作業だ。最初にPCからサーバ、仮想環境、その他という順でデバイスを把握し、次に『Windows』端末からオープンソース、クラウドサービス、その他という順でソフトウェアおよびサービスを把握する。最後に、一部の有償ライセンスからクラウドライセンス、追加有償ライセンス、その他の順でライセンスを把握すべきだ」(篠田氏)

 このようなプロセスを実践するためには、人材と予算が必要だ。また、企業としての必要性を周知し、モニタリングを徹底しなければ運用は成功しない。

IT資産管理に経営層の理解と投資は必須

 IT資産管理は経営の効率化とリスクヘッジのバランスを取る戦略であり、IT部門単独で完結するタスクではない。経営層の役割は理解と投資だ。

 IT資産管理に取り組む際は現状の可視化から着手し、管理を開始した後は仕組みを定期的に検証していこう。また、定期的なリスク対応を整備することも重要だ。

 最後に篠田氏は、「IT資産管理は経営課題だ。決して容易なものではなく、専門知識と相応の管理工数が必要だ。専任の担当者もしくはチームを任命し、知識不足を解消するために投資し、ツールに依存せずにプロセス変革を主導してほしい」と述べ、講演を締めくくった。

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