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SaaSもAIも増えすぎ……と現場がパンクして仕事が回らない時に試すべき5つのルール

SaaSやAIの普及により、業務を支援するツールや機能の選択肢は広がった。一方で現場では、「どのツールを使うのか」「どの手順が正しいのか」「AIに何を任せてよいのか」といった迷いも増えている。マニュアルやIT資産管理、SaaS管理、DAPなどの支援ツールは有効だが、その前提となる業務フローや利用ルールが曖昧なままでは効果を出しにくい。情シスは何を先に整理すべきなのか。

» 2026年06月17日 07時00分 公開
[中村篤志キーマンズネット]

 業務アプリケーションは増え続けている。経費精算や勤怠管理、ワークフロー、CRM(Customer Relationship Management)、SFA(Sales Force Automation)、オンライン会議、チャット、ストレージ。さらに近年は各種SaaSにAI機能が組み込まれ、利用者が日常業務の画面上でAIを使える場面も増えた。

 だが、便利になったはずなのに現場の迷いは減っていない。「この申請はワークフローで出すのか、チャットで依頼するのか」「顧客情報はCRMに入れるのか、部門の『Microsoft Excel』も更新するのか」「AI機能に社内情報を入力してよいのか」「困ったときは情シスに聞くのか、業務部門に聞くのか」。こうした迷いは、単なる操作方法の問題ではない。

 クラウドサービスの利用では、機能や費用だけでなく、利用者サポートの体制も確認対象になる。立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の「中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」でも、サービスの使い方が分からないときの支援として、ヘルプデスクやFAQが提供されているかを確認する観点が示されている。導入後の支援体制をどう設計するかは、SaaS活用の前提になる。

中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き(提供:IPA)

問題は「マニュアル不足」ではなく、判断軸の不足

 現場が迷うと、まず「マニュアルを作ろう」という話になりやすい。もちろん、マニュアルやFAQは必要だ。新しいSaaSを導入したとき、操作手順や注意点、問い合わせ先がまとまっていなければ、同じ質問が繰り返し寄せられる。

 ただし、マニュアルは決まった使い方を伝えるためのものだ。そもそも、どの業務でどのツールを使うのか、誰が例外を判断するのか、AI機能に何を入力してよいのかが決まっていなければ、マニュアルを増やしても迷いは残る。

マニュアルがあればいい、というわけではない

 例えば、申請業務を一つ取っても、稟議(りんぎ)や購買、経費、契約、勤怠で使うツールや承認ルートが異なることは珍しくない。例外対応や緊急対応が加わると現場は「どのルートが正しいのか」を判断できなくなる。ここで必要なのは、画面操作の説明だけではなく、業務ごとの正規ルートと例外時の判断軸だ。

 AI機能も同じだ。使い方の説明だけでは不十分で、入力してよい情報、禁止する使い方、出力結果の確認方法、利用ログの扱いを決めておく必要がある。デジタル庁の「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」も、生成AIを利活用する際に想定されるリスクと対応策を整理している。

情シスが見ている「管理」と、現場が困っている「利用」はズレる

 SaaSが増えるほど、IT資産管理やSaaS管理の重要性は高まる。何を契約しているのか、誰が使っているのか、ライセンスが余っていないか、退職者のアカウントが残っていないかどうかを把握することは、情シスにとって欠かせない。だが、利用しているからといって使いこなせているとは限らない。ログインはしているが一部機能しか使っていない、入力ルールが守られていない、結局Excelで二重管理している、といった状況は別途確認する必要がある。

 IT資産管理やSaaS管理で見えるのは、主に「何を使っているか」だ。一方で、現場が困るのは「どう使えばよいか」「この使い方でよいか」「例外時に誰へ聞くか」といった利用の場面にある。管理と利用の間にあるこのズレを放置すると、ツールは増えているのに、現場の業務は整理されない。

管理の観点 見えること 残りやすい迷い
IT資産管理/SaaS管理 契約、ライセンス、利用者、利用頻度 業務に沿って使えているか
マニュアル/FAQ 標準手順、注意点、問い合わせ削減材料 例外時にどう判断するか
ID管理/権限管理 誰がどこにアクセスできるか その権限で何をしてよいか
DAPなどの支援ツール 操作案内、利用状況、つまずきの把握 何を標準操作として案内するか

先に決めるべきは「ツール」ではなく5つの運用ルール

 SaaSやAI機能を現場に定着させるには、支援ツールを検討する前に、最低限決めておくべきことがある。

1.業務ごとの“正規ルート”

 まず決めたいのは、業務ごとに使うツールだ。申請や承認、顧客管理、問い合わせ、ファイル共有、契約確認など、業務単位で正規ルートを決める。複数ツールが併存する場合は、使い分け条件まで明確にする。「原則はワークフロー、緊急時のみチャット」「顧客情報の正式な登録先はCRM、Excelは一時作業用」といった線引きがなければ、現場は慣れた方法に戻る。

2.例外処理の判断者

 現場が迷うのは、標準手順よりも例外処理だ。差し戻しや緊急対応、部門独自運用、顧客要望、システム障害時の代替手段など、マニュアルに書きにくい場面ほど判断が分かれる。例外処理を全て事前に網羅することは難しい。だからこそ、誰が判断するのか、どの窓口に確認するのか、判断後にどこへ記録するのかを決めておく必要がある。

3.問い合わせの入り口

 問い合わせ先が分散すると、同じ質問が繰り返される。個人チャットやメール、部門内の口頭確認、ベンダーへの直接問い合わせが混在すると、情シスは現場のつまずきを把握しにくくなる。問い合わせの入口を決め、蓄積した内容を分析することで、現場がどの業務で判断に迷っているのか、どのルールが伝わっていないのか、どのマニュアルやFAQを見直すべきかが見えやすくなる。

4.更新責任

 SaaSは画面や機能が変わる。導入時に整えたルールやマニュアルも、放置すればすぐに古くなる。更新責任を決めておかなければ、現場は古い手順を参照し続ける。情シスか業務部門、もしくは管理部門のうち、誰が利用ルールを更新し、誰が現場に周知するのかを決めておきたい。

5.AI機能の利用境界

 各SaaSにAI機能が組み込まれると、利用者は業務画面の中で自然にAIを使えるようになる。その分、どこまで任せてよいのかを決める必要がある。入力してよい情報や禁止事項、出力結果の確認者、利用ログの扱い、社外秘情報や個人情報の扱いなどを整理しておかなければ、現場は「使ってよいのか分からない」か、「自己判断で使う」かのどちらかになりやすい。

どこまで使ってよいのかの定義を明確化する

支援ツールは“決めたことを現場に届ける”ために使う

 こうした運用を全て人手で支える必要はない。IT資産管理やSaaS管理、ID管理、マニュアル管理、FAQ、チャットbotなど、支援策は複数ある。業務アプリの画面上で操作を案内するDAP(Digital Adoption Platform)もその一つだ。

 ITRによると、国内DAP市場の売上金額は2029年度には500億円規模となる見込みだ。企業内では、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進や業務効率化に伴うシステム導入を背景に、操作教育の効率化やコスト削減を主な目的として導入が進んでいるという。

 DAPは、業務アプリの画面上で操作を案内したり、利用状況やつまずきポイントを可視化したりするための仕組みだ。WalkMeの資料「AIの可能性を成果に変える」では、AIや業務アプリを導入しても、ツールごとのUI差や複数システムをまたぐ業務、利用状況の可視化不足などが壁になり得ると整理している。

 ただし、支援ツールを入れれば自動的に定着が進むわけではない。どの操作を案内するのか、どの利用状況を見たいのか、何を標準手順とするのかが決まっていなければ、ツールを追加しても管理対象が増えるだけになりかねない。

「何を使っているか」から「どう使われているか」の管理を

 SaaSやAI機能が増えるほど、情シスの管理対象は契約やアカウントだけでは済まなくなる。何を使っているかを把握するだけでなく、どの業務でどう使われ、どこで迷い、誰がルールを更新するのかまで見なければならない。

 マニュアルや支援ツールは、その整理を現場に届けるための手段だ。まずは、業務の正規ルート、例外判断、問い合わせ入口、更新責任、AI機能の利用境界を決める。SaaS乱立時代の管理は、そこから始まる。

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