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光でオン、オフする「光駆動型超伝導トランジスタ」とは?5分で分かる最新キーワード解説(2/3 ページ)

» 2015年06月17日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

「光駆動型超伝導トランジスタ」の仕組みは?

 FETは、LSIの基本素子として不可欠なのはご存じの通り。基本的にはゲート電極に電圧をかけて回路に流れる電流の大きさを制御するスイッチング素子だ。この素子に超伝導材料を組み込み、高速かつ低電力で駆動させることを研究グループは探求してきた。

 同グループは2013年に世界で初めて有機物質を用いた超伝導FETの開発に成功した。これに用いたのが「κ-Br」(正式名称はκ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Br、κはギリシャ文字の「カッパ」)という有機材料だ。κ-Brをちょうど超電動と絶縁体との間で相転移が起きるぎりぎりの状態に制御しながら、ゲートに電圧をかける方法でスイッチングを行った(図1)。青色のゲート電極に9ボルトの電圧をかけ、温度を下げていくと、図右の黄色部分のように超伝導体が島状に出現し、温度が5Kになったとき、それぞれがつながり、急激に電気抵抗が下がってスイッチがオンになった。

有機物質(k-Br)を用いた超伝導FETのオン、オフ動作の模式図 図1 有機物質(k-Br)を用いた超伝導FETのオン、オフ動作の模式図(出典:分子科学研究所)

 開発のポイントは、無機材料ではなく有機材料を使って、大電流のスイッチングを可能にしたことだ。有機材料によるデバイスは印刷や塗布といった低コストな工程で製造でき、大面積のデバイス(ディスプレイなど)にも向き、落としたり曲げたりしても割れない柔軟性や軽さといった特徴が注目されてきたが、スイッチオン時に流れる電流が小さいことが弱点で、動作速度向上のネックだった。超伝導を利用して大電流を流せたことで有機トランジスタの用途が広がった。

 この実績を踏まえた上で、今回の開発では同様の構造をとりながらゲート絶縁体を「スピロピラン薄膜」に置き換えて外部電源、電極を取り去り、光の照射による電荷の蓄積と消失(オンとオフ)および超伝導と絶縁体との相転移を実現した。紫外光を当てるとスピロピラン薄膜が分極し、それにつられてそれまで絶縁体だったκ-Brに電荷が蓄積されるのだ(図2)。

従来の超伝導FET(A)と光駆動型超伝導トランジスタ(B)の模式図 図2 従来の超伝導FET(A)と光駆動型超伝導トランジスタ(B)の模式図(出典:分子科学研究所)

 κ-Brの電気抵抗が減少する様子を図3に示す。最初は絶縁体状態(図3の赤線)だったのが紫外光を照射して冷却すると、徐々に電気抵抗を減らして金属状態(図3のオレンジ線)になり、照射から180秒後には、7.3ケルビンで急激に抵抗が減り、超伝導状態に転移した。

紫外光照射による絶縁体から超伝導への変化 図3 紫外光照射による絶縁体から超伝導への変化(出典:分子科学研究所)

 超伝導状態は、紫外光の照射を止めてもそのまま維持されるが、可視光を照射すると分極していたスピロピラン薄膜が元の状態に戻り、κ-Brも元通りの絶縁体に戻った。光により超伝導状態のオンと絶縁体状態のオフがコントロールできることになり、超伝導スイッチとしての役割を果たすことが確かめられた。

 なお、この開発に大きな役割を果たしたスピロピランは、光によって分子構造や物性を変える特殊な分子であるフォトクロミック分子の一種だ。フォトクロミック分子は紫外線量によって色が変わる調光レンズ付きサングラス、光記録材料などに利用される。スピロピランは中でも紫外線によって電荷の偏り(分極性)が起きやすいのが特徴だ。この物質に注目したことが、今回の開発の鍵になった。

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