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星野リゾート「やるやる詐欺」の情シスが3カ月でシステム改修を実現した理由

たった5人の星野リゾート情報システム部は会社の急成長で悲鳴を上げた。予約サイトの機能追加が追い付かず「やるやる詐欺」という汚名を着せられたのだ。短期での機能追加を実現するために活用したものとは。

» 2018年07月05日 10時00分 公開
[野本幹彦キーマンズネット]

 「5人で社内全てのシステムやネットワークを見なければならない」星野リゾートの情報システム部は、会社の急成長で悲鳴を上げた。予約サイトの機能追加が追い付かなくなり、コミュニケーションの行き違いから「やるやる詐欺」という汚名を着せられたのだ。

 この汚名を返上し、短期での機能追加を実現するために活用したのがkintoneだった。結果的に、当初は12カ月かかるといわれていた開発期間を3カ月にまで短縮したという。何が功を奏したのか。

 2018年6月14日にサイボウズが開催した「kintone hive tokyo」では、星野リゾート グループ情報システム 前田 文子氏が登壇。「やるやる詐欺の情シスが3カ月で作った海外マーケット用決済システム」と題した講演で、当時の苦労や短期導入を実現した理由を語った。

人手不足で陥った「やるやる詐欺」事件

 37拠点のホテルや旅館を運営する星野リゾートは、旅行予約サイトや旅行代理店、電話などの複数の予約チャネルを使って、ユーザーの宿泊予約を受け付けている。自社の予約サイトも運営しており、最近ではその予約サイトの予約率が6割を超えてきている、と前田氏は説明する。

星野リゾートグループ 情報システム 前田文子氏 星野リゾートグループ 情報システム 前田文子氏

 会社が右肩上がりに成長する中で、自社予約サイトの重要性が高くなり、マーケティング担当からは改善や機能追加の要望が出されるようになった。しかし5人体制の情報システム部では、要望の増加に対応できなかったという。

 社内と情報システム部とのコミュニケーションミスも起きていた。例えば、マーケティング担当から予約サイトの機能追加の要望が来た際、情報システム部は「開発工数として3カ月を有する」と答えたつもりが、マーケティング担当側は「今から3カ月後に機能が追加される」と受け取ってしまった。

“あるある”コミュニケーションミスの例 図1 “あるある”コミュニケーションミスの例

 結果的に、深刻な人手不足に悩む情報システム部は、他に優先順位の高い案件も抱えており、機能追加の要望に着手することはできなかった。このようなコミュニケーションミスが何度かあった中で、情報システム部は「やるやる詐欺」という汚名を着せられ、経営陣からの信頼も失いつつあったと前田氏は振り返る。

12カ月の工数を3カ月に短縮した鍵

 この状況を打破し、マーケティング部の要望に応えなければならないと考えた情報システム部は立ち上がる。具体的には、3カ月で自社予約サイトに新機能を追加するというミッションを掲げ、転属直後の前田氏がその担当者となった。

 まず着手したのは、決済機能の追加だ。星野リゾートの予約サイトは、海外の代理店からの予約を受け付けていたが、カードでの決済しかできなかった。海外の代理店は個人運営や小さな会社が多く、法人カードも持っていない場合が多い。カードのみの決済ではエージェント個人が自分のカードを使うしかなく、限度額の関係で多数の予約を入れることができないという問題が発生した。これでは海外からの予約数を増やすことができないため、銀行振り込みで事前に決済できる機能が必要だった。

 3カ月でこの機能を追加しなければならない前田氏は、MFクラウドを利用して、請求書を代理店に送るような仕組みを考えた(図2)。しかし、開発会社に相談すると、開発には12カ月を有し、3カ月では実現できないと言われたという。これでは再び「やるやる詐欺」と呼ばれてしまう。そう感じた前田氏が上司に相談すると、ログの情報を格納するために使っていたkintoneの役割を拡張すればよいのではないか、というアドバイスをもらった。

MFクラウドを利用して代理店に請求書を送るシステム 図2 MFクラウドを利用して代理店に請求書を送るシステム

 具体的に、kintoneをどのように活用したのだろうか。当初、前田氏はクラウド上のサービスをつなぐだけで銀行振り込みの追加機能を実現できると想定していた。しかし、MFクラウドと自社予約サイトを連携させるためには作り込みが必要で、それが開発工数を増やす原因となっていた。そのため、予約システムとMFクラウドを直接つなぐのではなく、間にkintoneを置いて、予約情報や入金情報など情報を橋渡しすればよいと考えた(図3)。

kintoneを活用したシステムの仕組み 図3 kintoneを活用したシステムの仕組み

新機能への要望も1カ月で解決

 機能追加による効果は甚大だった。銀行振り込みの予約数が高く伸び、現在でも予約数が増え続けている、と前田氏は説明する。経営陣も満足し、情報システム部が怒りを買うことはなくなったという。同氏は、今回の構築を経験して次のように振り返る。

 「短期間でシステムを開発するには、kintoneファーストで考えるとよい。Kintoneは、他のシステムとの連携も容易で、しかも短期間でシステムを構築できる。また、要件が不確定な案件もkintoneファーストが奏功する。今回の例でいえば、新機能のリリース直後に要望によって、さらに機能を拡張する必要が生じたが、kintoneの即応性の高さによって約1カ月で解決できた。その結果、代理店と経理部門、双方のユーザービリティーを得られた」(前田氏)

 また、プログラミング知識のないユーザーがシステム開発に参加できることもkintoneを高く評価する点だという。

 「システム連携の作り込みなどは開発会社に依頼したが、アプリを業務で使うための情報を持つ自分が直接アプリを構築した。役割を分担できたことが、短期での構築を成功させたと思う」(前田氏)

 現在、星野リゾートではkintoneで作成した約700のアプリを業務に活用しており、これからもkintoneを核に置いた業務改善を行っていきたいと前田氏は締め括った。

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