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» 2022年06月15日 09時20分 公開

ノリか戦略か――横河電機、DeNA、pixivの個性が光る業務自動化の必勝法

横河電機、ディー・エヌ・エー、ピクシブの担当者がiPaaSによる業務自動化の取り組みを語った。各社の個性が反映された三者三様のプロジェクトから、業務自動化を円滑に進める秘訣や、現場従業員の抵抗への対処法、ITガバナンスを効かせるコツなどを学ぶ。

[名須川竜太キーマンズネット]

 事業部門主体で業務改革を進めることの有効性が指摘される中、非エンジニアでもノーコード/ローコードで業務プロセスやデータを統合、自動化できるiPaaS(Integration Platform as a Service)が期待を集めている。

 国内でもiPaaSを活用した業務変革の事例が出始めているが、各社とも動機や戦略、推進体制などはさまざまで、それぞれが事業部門を巻き込みながら内製化を進めるベストプラクティスを模索している状況だ。

 米国のiPaaSベンダーのWorkatoは、2022年5月11日〜13日にかけてオンラインイベント「Automate 2022」を開催。11日の事例講演では、横河電機、ディー・エヌ・エー、ピクシブの担当者らが、自社のiPaaS活用の取り組みを共有した。三者三様のプロジェクトから、業務自動化を円滑に進める秘訣(ひけつ)や、現場従業員の抵抗への対処法、ITガバナンスを効かせるコツなどが見えてきた。

(左上)ディー・エヌ・エー 大脇智洋氏、(左下)Workato 鈴木浩之氏、(右上)ピクシブ 加藤隆彦氏、(右下)横河電機 加藤享夫氏

パネラー

横河電機 デジタル戦略本部 戦略システムソリューション部 部長 加藤享夫氏

ディー・エヌ・エー IT戦略部 部長 大脇智洋氏

ピクシブ CIO 加藤隆彦氏

モデレーター

Workato オートメーションエバンジェリスト/日本創業者の鈴木浩之氏

ピクシブの決め手は「ノリ」? 三社三様の組織体制とルール

 最初のテーマは「業務の自動化をどのように進めているか」というものだ。「当社のビジネスは、お客さまや仕入れ先、従業員など多くの接点があります。これらの多様な接点をつないでプロセスやデータを統合、連携させて効率化を目指しています」。そう語るのは、横河電機の加藤享夫氏だ。

 横河電機は、ETLによるデータインテグレーションを進めてきたが、次なるステップとして業務自動化やUI統合を実現するためにWorkatoを導入したという。

 横河電機では、ITプロジェクトの実施プロセスを「企画→計画→設計/開発→テスト」と定めている。企画フェーズでは事業部門が主体となって要件や投資対効果を取りまとめ、それを基にIT部門がシステム化の「計画」を立てて「設計/開発」「テスト」を実施する。

 一方、ディー・エヌ・エーではIT戦略部の非エンジニアのメンバーが自分たちの業務を効率化して、より付加価値の高い仕事にコミットするためにWorkatoを活用している。

 「当社は社内ITの内製化を進めていますが、IT戦略部のエンジニアの工数はバックオフィス部門でのプロジェクトに回されてしまい、自部門のことは後回しになっているのが実状です。そこで、IT戦略部の非エンジニアでも自分たちの業務を自動化できるようにWorkatoを活用しています」(大脇氏)

 同社では、対象業務の候補をリストアップして効果が高いと見込まれる業務から自動化する方針だ。テスト環境から本番環境への移行時は「開発ルールに従っているか」「共通部品を使っているか」などをレビューしてリリースしている。

 「エラー発生時にはSlackで担当メンバーに通知するなど、非エンジニアのメンバーでも運用できるように体制を組んでいます」(大脇氏)

 イラストを中心にしたコミュニケーションサービスを展開しているピクシブは、単純作業の自動化にWorkatoを活用している。

 「当社は社内IT部門を擁していないので、カスタマーサポート部門長と私で相談し、『Workatoって面白そうだから使ってみようか?』といったノリで導入しました。計画的に自動化プロジェクトを進める段階ではなく、『皆にオモチャを渡してみて、それによってどのような変化が起きるかを見定めている』という状況です。活用計画や推進組織もまだ決めていません」(ピクシブ 加藤氏)

 取り組みの進め方は各社各様だが、いずれも非エンジニアユーザーが自分たちの業務の変革にコミットすることを前提としている。iPaaSは現場の要望を即時に反映しながら仕様を固められる点で、事業部門を巻き込みやすいツールだと横河電機の加藤氏は話す。

 「従来型のウォーターフォール開発では、システムの仕様を確定させた後に、事業部門は自分たちがやりたいことを伝えられたのか、要求がきちんと反映されるのかを心配しながら待っていたと思います。iPaaSは、事業部門のユーザーと結果を都度確認しながら開発を進められるので、より事業部門のニーズにマッチしたシステムを素早く作れます」(横河電機 加藤氏)

 現場を巻き込んだ業務改革を進めやすい点は、IT部門にとってもメリットだと加藤氏は続ける。「事業部門からの要望待ち」という受け身のIT部門もある中、横河電機ではIT部門が社内外の組織や人、ビジネスをつないで活性化する役割を担っている。「ITでビジネスをどうサポートしていくか、どう変えていくか」を追求する積極的な姿勢に対して、事業部門やコーポレート部門から高い評価が寄せられているという。

「今のやり方を変えられない」各社の現場に効くツボとは

 ただし、変革に伴う既存業務に変化に現場が抵抗を示し、効率化の試みが停滞することもあるだろう。ピクシブの加藤氏も、バックオフィス系業務の変革については現場の反発を予想している。

 「当社では経費精算システムのリプレースを機に業務プロセスを変える予定です。ところが多くの従業員は、業務プロセスはそのままにシステムだけが変わると思っています。当社の経費精算プロセスでは、中間決裁者が申請を100%承認しているので、中間の承認プロセスの廃止を提案しました。従業員が出した経費精算申請に対して、会社がすぐに支払っても何も問題は起きないだろうと考えたのです」(ピクシブ 加藤氏) 

 しかし、社内からは「従来のように経費は管理職がチェックすべきだ」という声が根強くあるという。

 「もちろん管理職が申請をチェックしたほうが良いに決まっています。しかし、100%承認しているのなら、わざわざサインする意味はないでしょう。定期的に監査を行えば、おかしな経費の使い方をする人がいても見つけられるはずです。従来のやり方を踏襲して、皆が非効率的なプロセスを強いられるようなことはなくしたい。ダイナミックな変革をしないと、これからの時代に適応できないと思っています」(ピクシブ 加藤氏)

 組織に変化への適応を促すために、加藤氏は折に触れて「前提を疑おう」と呼びかけていると話す。

 「ピクシブの従業員は皆とても素直なので、ロジカルに物事を進めるのはうまいのです。他の組織の成功事例を参考にして“自分たちのものにする”といったことはうまくやれると思います。ただ、素直なあまり現状を疑わない傾向があり、今までやってきたやり方がベストだと思っているところに違ったアプローチを持ち込むことで、一定の反発はあるのでないかと覚悟しています」(ピクシブ 加藤氏)

 そして、変革をスムーズに浸透させるには「特定の部門からやるのがよい」と加藤氏は続ける。

 「DXのような取り組みにしても、私は特定の部門から始めたほうがよいと考えています。当社では新しくCIO室を私の専属チームとして作り、その中に法務部を入れました。法務部のDXを中心に、さまざまなことを試しています。近くにいれば、彼らがどのように仕事をしているのかがよく見えます。これも当社のようなベンチャーだからできるやり方だなと思っています」(ピクシブ 加藤氏)

 膻河電機の加藤氏は、現場に受け入れてもらうために「経営層のコミット」と「目に見える効果」が必要だと考えている。

 「コロナ禍でテレワークに移行した際、申請と承認プロセスをデジタル化して出社せずに済む環境を整えて現場に喜ばれました。しかし本来、業務オペレーションの変化には大きな反発が起きると思っています。当社は全グループで業務を標準化して生産性を高めるという経営方針を掲げていて、トップダウンの力が大きく作用しています。その他、動くもの、目に見えるものを見せ、自分たちにどのようなメリットがあるのか、業務がどう良くなるのかを体感し、納得してもらいながら進めることも大切です」(膻河電機 加藤氏)

 一方、ディー・エヌ・エーの場合、ECベンチャーとして創業した後、短期間で事業の主軸をSNSやゲームなどにシフトしてきた背景から、環境の変化に適応する社内文化が定着していると大脇氏は話す。

 「当社のカルチャーを表すものに“永久ベンチャー”という言葉があります。会社がそれなりの規模になった現在も、ベンチャーマインドで次々と新たな事業を立ち上げており、会社全体として新しいことにチャレンジしようというマインドがあります。そのため、良いものなら事業部門に受け入れてもらいやすいと思っています」(大脇氏)

民主化とガバナンスのバランスをどう取るか

 ディスカッションの最後のテーマはガバナンスだ。現場のユーザーが「あれもこれも」と自動化を進めることで、サイロ化や過度の属人化、セキュリティ違反などが生じる恐れもある。それを防ぐために各社はどのような施策を取っているのか。

 ディー・エヌ・エーの場合、過去に自社運営のキュレーションサイトで著作権侵害などの問題を起こした反省から、現在はコンプライアンスやセキュリティに関して厳格な体制をとっている。ツールによってはセキュリティ担当部門や法務部門のチェックを受けなければ導入できず、遅滞による現場の機会損失につながる場合もある。

 「そこで、過去に同様の申請、承認があった内容についてはホワイトリスト化して申請プロセスを簡略化するなどの工夫を図っています。新しいツールの導入を事業部任せにせず、一定のルールの下で使ってもらうようにしています」(大脇氏)

 Workatoによる開発を進める際は、自動化プロセスの命名ルールによって誰が開発者なのかを一目で分かるようにするといった工夫をしているという。

 横河電機の加藤氏も、ツールの民主化を進めたいという思いがある一方、セキュリティリスクや部門ごとのサイロ化、過度に属人化したプロセスなどを生じさせないためのガバナンスを重要視していると語る。

 「今はグローバルで定められたプロセスをうまく効率化するためにWorkatoによって業務プロセスの自動化、統合したいと考えており、従業員の個別業務の自動化については避ける方針です。この方針はツールの民主化の考えと相反するところがあるので、ガバナンスと民主化のバランスをどう取るかは悩みどころです」(膻河電機 加藤氏)

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