システム連携のコストや工数を削減し、業務自動化を実現するiPaaS。日本ではどの程度認知されているのだろうか。
キーマンズネットは2022年9月9日〜29日にわたり、「iPaaS(Integration Platform as a Service)の利用状況」に関するアンケートを実施した。
iPaaSは“Integration Platform as a Service”の略称で、クラウドサービスだけでなくオンプレミスも含めた各種システムを統合的に連携する機能をクラウドサービスとして提供する。製品によっては、高度なコーディングスキルを持たない人でもローコードで連携プロセスを開発できるので、内製化による開発費用の削減も期待されている。
海外ではSaaSの利用とともにそのプロセス連携・データ連携のためのミドルウェアとして利用が進んでいるが、キーマンズネットの2021年の調査ではiPaaSについて「聞いたことがない」が約4割で、導入済みの企業は1割にも満たなかった。1年経ってその状況は変わったのか。
コロナ禍におけるテレワークの普及に伴って、オンラインでどこからでも利用できるSaaSが重宝され、急激に普及した。だが、そうしたシステム環境の変化によって「基幹システムのデータとSaaSのデータを機動的に連携できない」(36.0%)、「刷新できないレガシーアプリケーションが数多くあり、UXや生産性が低下している」(32.0%)、「SaaSの導入が進んだことで、アプリケーションが乱立して業務プロセスが複雑化している」(23.0%)といった課題が発生しているようだ(図1)。
「基幹システムのデータとSaaSのデータを機動的に連携できない」については従業員数が多い企業ほど問題視していることが見て取れた。大企業では、基幹系システムとSaaSのデータを連携し、タイムリーな事業経営につなげたいとするニーズが増えている一方で、その工数やコスト、技術的な難しさが壁になるという話もよく聞く。
3位の「SaaSの導入が進んだことで、アプリケーションが乱立して業務プロセスが複雑化している」について、別の調査によれば、従業員は1日平均30回、13種類のアプリケーションを切り替えており、仕事への集中を妨げられているという結果も報告されている。
こうした課題に対し、複数システムの統合やプロセス自動化などの機能を提供するiPaaSが解決の糸口として期待されている。アイ・ティ・アールが2022年7月14日に発表したレポートによれば、国内iPaaS(Integration Platform as a Service)は2021〜2026年度の年間平均成長率(CAGR)を32.7%、2026年度の市場規模は115億円に達することが見込まれる。では、企業ではどの程度認知されているのか。
iPaaSの認知度に関する質問では、「聞いたことがない」(45.7%)が最も多く、「名前は聞いたことがあるが何をするものかは知らない」(41.7%)、「具体的に何をするものか知っている」(12.6%)が続いた(図2)。ガートナーのハイプサイクルにおいては、iPaaSは幻滅期を脱して「普及期」に入っているとされるが、企業での認知度はそれほど高くないようだ。
導入状況については、「導入している」とした回答者は1.7%とわずかで、「導入していないが具体的な導入に向けて検討中」(4.6%)、「導入していないが興味はある」(25.7%)、「現在導入しておらず、今後も導入するつもりはない」(26.9%)、「分からない」(41.1%)という結果になった(図3)。2021年の同様の調査では導入済みの企業が7.4%だったのに対し、利用率は後退している。さらに、導入している企業は全てが1001人以上の従業員数の企業だった。
初期コストや導入工数が比較的低いSaaSは企業規模を問わず導入が進んでおり、中堅・中小企業ではそれらを新規ビジネスの前提環境として連携させたいというニーズも高まっている。今後、日本における事例が公開されるにつれて、iPaaSの導入が進む可能性もある。
iPaaSを「導入済み検討中、興味があると回答した方に対して、期待できる効果について聞いたところ、「業務プロセスの自動化と生産性の向上」(69.6%)、「データ管理の省力化」(42.9%)、「組織横断的な業務プロセスの自動化」(42.9%)、「システム連携のコストの削減」(41.1%)、「システム連携の開発スピードの向上」(41.1%)と続いた(図4)。
「業務プロセスの自動化と生産性の向上」や「組織横断的な業務プロセスの自動化」など、自動化をキーワードにした項目にも回答はいずれも2021年調査より順位を上げている。日本においては、業務の自動化を実現するツールとしてRPA(Robotic Process Automation)の注目度が高いが、PC画面の操作ボタンや入力項目の位置を認識して「ボタンを押す」「コピペする」といった操作の積み重ねを模倣するRPAに対し、PCの画面を介さずAPIを通じて内部的にデータを連携できるiPaaSは、画面UI変更といった外部環境の変化に強く、データ連携のスピードも速いとされる(ただ、近年RPAと称される製品の中にはAPI連携の機能を持つものもある)。
iPaaSベンダーによっては、RPAは個人のデスクトップ作業の自動化には向いているが、部門を横断するような業務にはiPaaSが適していると訴求しており、導入企業もそうしたメリットを期待して導入している可能性がある。業務自動化とiPaaSの導入ニーズについては後編でも紹介する。
「システム連携のコストの削減」「システム連携の開発スピードの向上」は期待する効果の4位、5位に挙がった。従来のシステム連携ではデータの抽出やデータプレパレーション、各種データマッピングなどの下準備やデータをつなぎこむ部分の実装に相当なコストや工数が掛かり、時にSIerなどと手を組んで数億円の費用をつぎ込むケースもある。これに対し、iPaaS製品の中にはは情報システム部門がローコードでシステム連携をスピーディーに内製できるとしているものもあり、外部委託コストの削減や開発スピードの向上が期待できる。
ちなみに、大日本印刷は基幹システムとSalesforceのデータを掛け合わせて新しい顧客の獲得につなげる施策にBoomi AtomSphere Platformを活用し、情報システム子会社だけでデータ連携の自動化を実現した。開発期間は、スクラッチ開発と比較して約半分に短縮したという。
関連してiPaaSを適用したい業務についてフリーコメントで聞いた。最も多かったのはオンプレミスの基幹システムのデータを他システムに連携したいというニーズだ。以下のような用途が挙げられた。
なお、全回答者数175人のうち、情報システム部門が32.0%、営業・販売部門が10.9%、製造・生産部門が19.4%、経営者・経営企画部門が5.1%と続く内訳であった。グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。
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