ERPのクラウド移行と、クラウドERPの新規導入を検討する企業に向けて、SAP S/4HANA Cloudへの移行の不安に答えるキーマンズネットの記事8本を紹介する。
ERPパッケージの原点ともいえるSAPのERPは、約40年の歴史を通して世界トップランクの市場シェアを維持してきた。知名度は高く導入例も多い中、「SAP ERP」(ECC6.0)は2025年に標準サポートが終了、エンハンストパッケージ(EHP)6以降を適用した場合でも2027年12月までの延長サポートをもって終了する。この機会に最新のクラウド版SAP「SAP S/4HANA Cloud」への移行を検討する企業は多いが、不安はまだまだ多いと思われる。
本稿は、ERPのクラウド移行やクラウドERPの新規導入を検討する企業に向けて、移行の不安を解消する記事8本を紹介する。
ERPにAI(人工知能)やIoT、高度なデータ分析機能など最新技術を取り込むと、多様なパラメーター設定やアドオン開発部分との不整合による問題が起きる可能性がある。その結果、メンテナンスや機能拡張のコストが増大することが、移行への不安を招いている。
業種、業態によって基幹系システムの対象は異なる中、会計や財務は比較的業務プロセスの差が少ないため導入が進んだ。しかし、工程管理や生産管理、販売管理などは、独自の業務プロセスが変えられない、もしくは変えたくない現場の反発が強く、標準機能やオプションのカスタマイズでは対応できない業務プロセスはアドオン(追加)開発を必要とする。
ユーザー企業は多様なオプションを適切にカスタマイズすることが難しく、導入ベンダー(SIerやコンサル業者)の手を借りるケースがほとんどだろう。アドオン開発は開発業者に依頼するのが一般的だ。複雑なアドオン開発やカスタマイズを重ねていくと、その分メンテナンスコストも膨らむ。その結果、ERPを“塩漬け状態”で利用せざるを得なくなり、ERPが「レガシー化」していく事態に陥る。
これを解決する方法の一つがERPのクラウドシフトだ。SAP利用企業ならSAP S/4HANA Cloudが有力な選択肢となる。ERP未導入の中堅・中小企業にとってもクラウド版のERPがコスト最適の選択肢となる場合がある。
こうした事情と動向をSAP(日本法人のSAPジャパン)はどう捉えているのだろうか。「SAP専門家が分析『日本企業がERP導入にてこずる5つの理由』」は、同社のコンサルタントが日本企業のERP導入の障壁となる要因を分析し、「『日本企業が抱えるERP5大課題の解決策』SAP専門家が徹底解説」では、課題を解決する糸口を紹介する。
上記の2記事では、日本企業はオペレーションへの投資(人材割当も含め)が軽視される傾向にあり、「導入〜塩漬け」を繰り返すと指摘されている。多くの日本企業は社内に技術者が少なく、導入はもちろん運用も外部パートナーに依存しがちで、結果的に高コスト化することが多いようだ。
数多くの失敗ケースが語られ始めたことで、「カスタマイズとアドオンが必要なERPはレガシーシステムと同様、機敏に変化に対応できず、運用コストが増すばかり」という認識が生まれることになり、特に中堅・中小企業にはハードルが高くみえている。
このような事情に対してSAPジャパンは「クラウド版への移行をチャンスとして『Fit to Standard』の考え方で業務を変化させていく」ことを提案している。「業務のベストプラクティス」を製品に盛り込んでいるのが同社ERPの特徴であり、最適なコストでシステムを構築できる。機能を追加開発するのではなく業務をERPに合わせればいい、という考えだ。
ERPは各国の商習慣に対応し、さまざまな業界や業種、業態に適した機能を備えている。ただし、標準機能のパラメーター設定は多岐にわたり、適切な設定にはノウハウが必要になる。そのため、日本のSAP導入ベンダーは独自に特定業種向けの設定や追加機能をパッケージにした「テンプレート」を提供しており、導入期間とコストを削減できるよう工夫してきた。テンプレートを活用することで、業種ごとにある程度標準化されたプロセスが盛り込めるため、中堅・中小企業でもERP導入を機に業務標準化を進められる。
そのようなテンプレート導入を前提に2022年7月に開始したサービスパッケージ「All-in-Oneパートナーパッケージプログラム」は、300〜1000億の年商規模の企業を対象に提供されている。導入範囲を限定し、クラウドオプションや導入期間、導入費用が明示されているので、コストと導入期間を事前に把握可能だ。これについては、「中堅・中小企業でも手軽にできる『SAP S4/HANA』最短導入術」を参照いただきたい。
ほとんどのクラウドサービスは標準機能を改変、または機能を追加できる余地が少なく、SAP S/4HANA Cloudの場合も同様だ。これに対して、SAPジャパンの専門家は、クラウド版を新規導入する場合や既存ERPに使いにくさを感じている場合の移行と、既存ERPをうまく活用できているがクラウド移行を進めたい場合の移行で推奨する方法を、「SAPが推奨する『ERPの価値を最大化するクラウドシフト方法2選』」で語っている。
記事では、次のような導入や移行の方法が紹介されている。
基本的に標準機能を利用し、標準機能では厳しい要件は標準オブジェクトとは別レイヤーで管理するIn-App拡張でバージョンアップの影響を受けない機能拡張ができる。また、追加で業務プロセスを実装したり、外部サービスと連携させたり、独立アプリケーションを加えたりといったカスタムアプリケーションは「SAP Cloud Platform」で開発し、コア機能に影響を与えないSide-by-Side拡張も利用可能だ。これらを使い分けることで、システムの複雑化やレガシー化を避けられるとSAPは説いている。
オンプレミスで導入され十分に活用ができているERPのクラウド移行については、「システムコンバージョン方式」を提案している。上記記事ではSAP ERP(ECC6.0)のパラメーター設定やアドオン、マスター、データを全て引き継いでSAP S/4HANA Cloudに移行するためのツールが4種紹介されている。今あるERPの機能をそのままSAP S/4HANA Cloudで活用するためのものだ。
AIやIoT、アナリティクスなどの最新技術をERPに取り込むことを念頭に、クラウド移行に向けたサービスやツールをバンドルした「RISE with SAP」の提供も開始されている。同社は、パブリッククラウドまたはプライベートクラウドのSAP S/4HANA Cloud導入と拡張による「Intelligent Enterprise実現のための道しるべ」であると述べる。
RISE with SAPは、クラウドインフラも含むSAP S/4HANA Cloudに加え、移行時に必要な事前準備を効率化するためのサービス/ツール群と、外部パートナーの最新技術によるサービス/ツールと連携させるための機能を備えたパッケージだ。詳しくは、「基礎から学ぶ『RISE with SAP』 BTP活用事例3選とクラウドシフトを徹底解説」と「RISE with SAPとS/4HANAはなにがどう違う? 3大要素を徹底解説」で解説している。
データ分析に必要なデータ管理や他システムとの統合が可能で、例えばローコード/ノーコード開発機能やAI/機械学習、RPA、チャットbot、IoT、ブロックチェーンなど最新技術を取り込める。コア機能はそのままに自在に機能拡張でき、ERPの「レガシー化」を防ぐことができる。
パナソニックと熊谷組は、既存のオンプレミスERPをSAP S/4HANA Cloudに移行するプロジェクトを推進中だ。ERPのクラウド移行によりDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させようとしている両社の工夫が見える。
パナソニックが移行前に業務プロセス可視化と削減可能なアドオン発見に役立てた「プロセスマイニング」を解説した記事「パナソニック100拠点に『SAP S/4HANA』を導入 "あるツール"でリプレースを標準化」や、熊谷組が利用した「第三者保守サービス」を活用した事例「熊谷組がSAP R/3をリプレース 第三者保守サービス活用で建築DXを目指す」で解説している。
クラウドERPは、迅速に機能拡張ができ、新技術を柔軟に取り込めるDX推進の頼れるツールでもある。導入や移行の際は利用できるツールとサービスを検討し、他の日本製ERPとの比較検討も含めて議論していく必要があるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。