VMwareがBroadcomの傘下になったことで、コストアップを強いられる企業は少なくない。NTTデータは、行き場を失った企業へもう一つの選択肢を提供するという。
NTTデータはオープンソースの仮想化技術「KVM」(Kernel-based Virtual Machine)向け運用管理サービス「Prossione Virtualization」の提供を2025年7月に開始する。仮想化環境の運用管理ツールと専門技術者によるサポートをパッケージしたサブスクリプション型サービスだ。VMware製品の価格改定に伴うコストアップに不安を抱く企業のニーズに応えるものだという。
サービス提供のきっかけとなったのは、BroadcomのVMware買収に伴いライセンス価格が更改されたことにある。VMware製品を採用するサービスの価格を3割以上引き上げたITベンダーもあり、将来のさらなるコスト上昇に危機感を抱く企業は多い。VMware製品は国内仮想化ソフトウェア市場で9割以上のシェアを獲得しているという調査結果もあり、買収による価格改定は企業にとって大きな打撃となったのは言うまでもない。
移行先としてオンプレミスならば「Hyper-V」や「Citrix Hypervisor」、パブリッククラウドなら「Amazon Web Services」(AWS)や「Microsoft Azure」などの海外ベンダー製品やサービスがまず浮かぶ。これに対し、NTTデータの富安 寛氏(取締役、常務執行役員)は「システムには、自国、自社の主権を確保すべきだ」と主張する。国家レベルで課題となっている経済安全保障の観点からも、「自国、自社でコントロール可能なシステム基盤が必要だ」と説く。
自社で主権を確保できる環境を構築するために、NTTデータは2つのサービスを提供している。一つは自社開発のコミュニティークラウド「OpenCanvas」だ。国内サーバで運用するクラウドサービスで、立入監査にも迅速に対応可能な運用の透明性と柔軟なカスタマイズ性が特徴だ。海外クラウドサービスとの接続も含めてユーザー企業自身がコントロール可能で、主権を確保できる。
もう一つがLinuxとKVMを活用したオンプレミスシステムの構築と運用、管理サービスだ。OSと仮想化ミドルウェアを中核として「Postgres SQL」やJava、その他のオープンソースソフトウェアを利用して大規模なシステム構築と運用管理サービスを提供する。オープンソースツールを活用するため、透明性の高いシステムの構築を可能にする。Prossione Virturizationは、このようなオープンソースを活用したシステム運用管理サービスだ。
Prossione Virtualizationが担う運用管理機能の特徴は主に5つある。
1.複数のホストサーバ(物理)と仮想マシン、ストレージ、ネットワークなどの状態監視と構成管理を一元化
2.仮想化環境の構築と更新、仮想マシンのライブマイグレーション(稼働中の仮想マシンの物理サーバ間移動)
3.ホストサーバ故障時のライブマイグレーション(正常なホストサーバに仮想マシンを移動)
4.ソフトウェアアップデートによる機能追加、技術問い合わせ対応(プロダウトサポートの長期サポートも可能)
5.継続的なソフトウェアアップデート(機能追加を含む)
オンプレミスのサーバ仮想化環境でOSに「Linux」、仮想化ソフトウェアにKVMを利用しているケースに対応し、KVMに不足しているエンタープライズ向け運用管理機能をツールに搭載。専門技術者による技術サポートを一体にしたことも特徴だ。
オープンソースソフトウェアは多くの日本企業に浸透し、ミッションクリティカルなシステムを含む多様なシステム開発で使われている。KVMは古くから認知され、国内、国外の大手パブリッククラウドでも利用されているが、オンプレミスの大規模システム開発プロジェクトでは思うように浸透していない。高度な専門知識やノウハウが必要になることが主な原因だ。
冨安氏は、KVM活用においてNTTデータが高い経験値を有することを裏付ける過去の実績を挙げた。
「KVMは1つの仮想環境を作るだけなら簡単です。しかし1つのホストサーバで10個、20個の仮想マシンを立ち上げ、しかも複数のホストサーバを必要とする環境では仮想マシンを数百台分管理することになります。KVMにはそれらを管理する十分な機能がありません。そこで当社が新しく提供するのがProssione Virtualizationです」(冨安氏)
ユーザー企業の運用管理担当者はこの運用管理ツールをWebベースのGUIや、業務自動化可能なREST APIを駆使しながら利用することで、高度な専門知識やノウハウがなくても大規模な仮想環境の運用管理が可能になる。分からないことがあればNTTデータが提供するナレッジドキュメントを参照したり、プロダクトサポートを利用したりして補完できる。オプションでトレーニングも提供する予定だ。もちろん同社にインテグレーションを任せることもできる。
NTTデータの調べによると、VMwareユーザーの約4分の3が「(他製品に)移行しない」という意向を示しているという。同社は、残りの4分の1のユーザーをまずはターゲットにする。バンキングクラウドや勘定系の脱メインフレームの例からも分かるように、安定稼働がかなえばオープンソースに乗り換えたいというユーザー企業は増加傾向にあるという。ベンダー戦略に振り回される煩わしさから脱したいという機運が高まり、3年後にはシステム環境の見直しを検討する企業が増えるとNTTデータは予測する。
2025年3月にNTTデータ内のシステム開発プロジェクトでProssione Virtualizationが使われ、同年7月にバージョン1.0の提供を開始する。同10月に機能を追加したバージョン1.1を、さらに2026年3月にはバージョン1.2を提供する予定だ。
VMwareからの脱却を検討する企業にとって、組織の主権を確保するためのシステム構築にはオープンソースソフトウェアの活用が今後不可欠となるだろう。これまで導入障壁となっていた技術的なノウハウを、ツールやベンダーサポートで補完できるサービスの登場は心強い。
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