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AI投資進むも"AIセキュリティ投資"進まず 企業の期待と不安交錯

企業はAIエージェントを競争優位や生産性向上のための手段として捉えている。だがAIエージェントは新規の技術で、完全には信頼できない。こうした状況の中、セキュリティ対策の面で企業の行動には矛盾があるようだ。

» 2025年08月21日 07時00分 公開
[Eric GellerCybersecurity Dive]
Cybersecurity Dive

 生成AIに対する企業の懸念点は何だろうか。調査によれば、セキュリティとプライバシー、つまり信頼の問題だ。

 企業は競争優位を保ち、生産性を上げるために生成AIをワークフローに組み込む必要に迫られている。ただし、生成AI自体の信頼性や監査の可能性について難しい問題が残っており、担当者には迷いがあるという。

 企業の業務に生成AIを生かそうとした場合、注目を集めているのは複雑な作業を自律的に実行できるAIエージェントだ。企業はAIエージェントへの投資に新たな予算を割り当て始めた(注1)。

 コンサルティング企業で会計事務所でもあるKPMGが2025年6月26日(現地時間、以下同)に発表したレポート(注2)と、テクノロジー企業Thalesが同年5月に発表したレポートを見ると(注3)、ビジネスリーダーが生成AIについてどのような懸念を抱いているのかが分かる。

AI投資進むも"AIセキュリティ投資"進まず 企業の期待と不安交錯

 KPMGの調査に回答したビジネスリーダーは生成AIに関わる予算の決定において何を優先したのだろうか。回答者の67%は「AIモデルのためにサイバーセキュリティやデータセキュリティ対策に予算を投じる予定」だと答えた。さらに52%は予算上の優先事項として、リスクとコンプライアンスへの対応を挙げた。

 ビジネスリーダーがこのような決定を下した背景には、生成AIに対する不安の高まりがある(注4)。KPMGが発表した2025年第2四半期の最新レポートでは、69%のリーダーがAIとデータプライバシーの問題に懸念を示しており、これは2024年第4四半期の43%と比較して30ポイント近く増えた。また、AIに関する規制への懸念も42%から55%へと上昇した。

 ジョージタウン大学のアンドリュー・ローン氏(セキュリティおよび新興技術センターに所属するシニアフェロー)は『Cybersecurity Dive』に対して、「企業がセキュリティに予算を投じているのはAIを本気で活用しようとしているからだ。企業は単に試験的な導入を進めようとしているのではない。これは良い兆候にみえる」と語った。

 Thalesが毎年発表している脅威レポートでも同様の傾向が明らかになった。このレポートは20カ国15業界のITとセキュリティ専門家3200人を対象にした調査に基づく。生成AIに関するリスクとして、調査対象者が挙げた上位の4つは次の通りだ。

エコシステムの急速な変化(69%)
・データの完全性の問題(64%)
・信頼性(57%)
・機密性(45%)

 回答者は、セキュリティに関連する支出項目としてAIセキュリティを上位に挙げた。回答者の10%は「AIセキュリティが最大の支出項目だ」と答え、13%が2番目、7%が3番目に挙げた。

 だが、リーダーの回答と行動にはずれがある。企業の主要な懸念事項としてAIセキュリティが挙がったにもかかわらず、実際にAIセキュリティを最大の支出項目に挙げた回答者はわずか10%にとどまるからだ。

 AIソリューションを提供するFrontier Foundryのニック・リース氏(共同創業者兼最高執行責任者)は、この事実についてCybersecurity Diveに対して次のように述べた。

 「企業がAIシステムを導入および運用する際の支出の在り方にずれが生じている。AIへの投資から本当の価値を引き出すためには、AIへの信頼や安心感の欠如と向き合い、それらの不安を払拭するためにAIモデルを徹底的に検証する必要がある」

AIエージェントへの慣れもみられる

 Thalesの調査では、回答者の73%が新たな予算または既存の予算を使ってAI専用のセキュリティツールに投資していることも明らかになった。回答者の3分の2以上は「クラウドベンダーからAIセキュリティツールを購入している」と答え、5人に3人は「セキュリティベンダーから購入している」と答えた。また、報告によるとおよそ半数は新規のベンダーから購入しているようだ。

 ビジネス全体でAIエージェントが注目を集める中、KPMGは、企業のリーダーがAIエージェントに徐々に慣れてきているようだとも指摘した。

 2024年第4四半期に発表されたKPMGの調査では、回答者の63%が「信頼できるテクノロジープロバイダーによるAIエージェントの導入を優先している」と答えていたが、2025年第2四半期のレポートでは同じ回答をした回答者の割合が55%に低下した。同様に、「人による監視がない状況では、AIエージェントに機密データへのアクセスを許可していない」と述べた回答者の割合も、2024年第4四半期の52%から2025年第2四半期には45%に低下している。

 一方、「タスクをAIエージェントに完全に任せることにまだ不安がある」と答えた人の割合は28%から45%へと上昇した。

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