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情シスはAI時代をどう乗り切る? 「業務コンサル」への転身術を実例を基に解説

AI進化でプログラマーの仕事が代替される中、情シスはAIを味方に「業務コンサル」として進化することで生き残りを図れるでしょう。事業部門の課題解決と変革を主導し、「守り」から「攻め」へ転じるキャリア戦略を具体事例と共に解説します。

» 2025年11月07日 07時00分 公開
[久松 剛エンジニアリングマネージメント]

情シスのキャリア戦略

エンジニアリングマネージメント社長の久松氏が、情シス部長を2社で担当した経験を基に、情シスのキャリア戦略で役立つ情報を発信します。

 AIの進化に伴い「エンジニアの仕事がなくなる」という説がしばしば語られます。特にプログラマーに関しては、ジュニア層を中心に求人が停滞しており、生成AIがコードの自動生成や補完を担うことで代替が進む可能性が高いと見られています。

 しかし、情シスは事情が異なります。ITソリューションそのものが不要になるわけではなく、扱う対象にAIという新しい要素が加わるだけです。AIの普及により、情シスが担うべき領域はむしろ広がっています。システム運用の延長ではなく、業務を変革に導く立場への進化が求められているのです。むしろAIを味方に付けたキャリアに転身することで、キャリアアップも見込めるでしょう。その飛躍のチャンスをどう生かすかということについて、実例を交えてお話します。

生成AIが情シスの新たなニーズを生み出す

 生成AIを活用した業務効率化の具体的な取り組みが注目され、「gpt-oss」「Dify」「GPTs」当たりをまとめたチャットbotシステムの開発が広がっています。さらに、特定業務に特化した小規模アプリや単機能サービスをバイブコーディングで内製し、社内環境で活用するケースも増えています。

 共通する事象としては、従来のように最初から外部ベンダーや社内プログラマーに依頼するのではなく、事業部門に近い人材が自ら課題を拾い、短期間で業務効率化の成果を出す流れが主流になりつつあります。このAX(AIトランスフォーメーション)を起こす人たちの呼称は「業務コンサル」が近いのではないでしょうか。

業務コンサルの役割

 業務コンサルは単にAIツールを導入するだけではありません。事業部門の業務課題をヒアリングして整理し、改善案を設計し、必要であればツール導入も支援します。業務フローを変えたくない人達にはツールが使われないことも多いため、メリットを説明して教育することも含みます。

 これはRPAやノーコード、ローコードによる効率化の延長線上にあり、生成AIによって選択肢がさらに広がったものといえます。

 社内に業務コンサル人材がいることで、外部コンサルに依存せず迅速かつ現実的に改善を進められ、コスト削減とスピードアップの両立が可能になります。

業務コンサルのキャリア事例

 ある企業では、営業やマーケティング職の出身者がDifyを活用し、自作ツールを社内で展開しました。現場課題と常日頃向き合っているため業務フローの解像度が高く、そこに当人の論理的思考能力が組み合わさることによって、プログラミング未経験にもかかわらず、0.5人月で社内ツールのリリースにこぎ着けました。

 弊社の支援先企業では、グループ会社のAXやDXを推進するために新ポジションを設けました。課題発見から利用定着まで伴走する役割で、採用されたのは全員営業出身者であり、個人で生成AIを使ったチャットbotによる業務効率化を達成したことがある面々でした。セキュリティや要件レビューはエンジニアが担当し、業務コンサルは改善に専念する分業体制により、非エンジニアでも力を発揮できるモデルが確立されました。

 ある企業では、当初はAX、DXチームが全社の取り組みを一手に担っていました。しかし部署ごとに課題が異なるため、全社方針に従うことが難しくなりました。そこで部署ごとにAI活用に積極的な人材を登用し、AX、DX担当を配置する体制へ移行しました。業務コンサル的役割を担う人材が増えることで、全社方針と現場改善の両立が実現しました。バラバラに業務効率化をしても最終的に無駄が増えることが多いため、取りまとめ役としてリーダー経験のあるエンジニアを立ててAX、DXに取り組んでいます。

業務コンサルに求められる能力

 業務コンサルに求められる能力は下記のようなものがあります。

  • ヒアリング能力: 事業部門の課題を正しく聞き出し、根本的な問題を言語化できる力
  • 業務ドメイン知識: 部門やチームごとの特性を理解し、現実的な改善策を設計できる力
  • 技術理解: RPA、ノーコード、ローコード、生成AIなどを適切に使い分けられる技術選定力。成果物に対して要件が満たされているかどうかの確認ができる能力。セキュリティや運用コストに対する理解
  • 関係者調整力: 業務部門とIT部門、経営層をつなぐ橋渡し能力。ツールに対し、現場に適用、浸透できる教育力
  • 教育力: 新しい業務フローをエンドユーザーが利用するようになるまでの教育力

 これらは必ずしもプログラミング経験からのみ得られるものではなく、現場改善に携わった経験があれば得られる能力です。そこにAIのアシストが加わることによって業務効率化を達成できる土壌が出来上がったと言えます。

情シスから業務コンサルへの進化

 情シスは従来、全社横断的に業務を見渡し、要望を調整してきました。この経験は業務コンサルに直結します。しかし「守りの部門」と見なされ、経営層からの評価が限定的になりがちでした。業務変革を主導し、数値で成果を示せる業務コンサルの役割を担うことは、情シスはキャリアの幅を広げ、攻めの立場へ転じる大きな転機となります。

生成AIブームとキャリア形成

 現在、生成AI活用はバブル的に広がっており、PoCで終わるケースもあります。これをキャリア形成に結び付けるには、単にツールを使うのではなく、業務全体を再設計する視点が求められます。

 生成AIを便利な機能ではなく、業務を変える仕組みとして活用することが、業務コンサルとしての価値を高めます。経験を一時的なブームで終わらせず、キャリア資産に変える姿勢が重要です。

経営層から見た業務コンサルの意義

 経営層にとっても業務コンサルは重要な存在です。社外コンサルに頼り続ければコストが増大しますが、社内で人材を育成すれば継続的な改善が可能であり、知見も蓄積されます。また、業務理解という観点からも社内人材の方がキャッチアップが早いという期待があります。

 属人的だった業務を可視化し、生成AIで知識を共有することは、生産性向上に直結します。情シスが業務コンサルに進化することは、個人のキャリアだけでなく企業全体の競争力を強化する取り組みです。

業務コンサルはキャリア形成のチャンス

 AIを使った業務改善は、小さな成功体験を積み重ねることが重要です。例えばチャットbot導入や申請業務の自動化といった範囲が限られたものでも、事業部門が便利さを実感できれば社内での信頼が高まります。その結果、さらなるプロジェクトや改善提案を任されるようになり、担当者自身のキャリア形成にも直結します。こうした「小さな成果の積み上げ」が情シスや業務コンサルに求められる役割を裏付けていくのです。

 AIが進化する中で、ジュニアプログラマーの求人は減少傾向にありますが、情シスの役割は拡大しています。業務コンサルはその延長線上にあり、業務課題を見抜き、AIを含む最適なソリューションを用いて改善へと導く役割です。

 プログラマー経験がなくても、業務知識や改善意欲を持つ人材には活躍の場が広がっています。情シスにとっても「守り」から「攻め」への進化を体現する有力なキャリアの一つであり、未来を切り開く道となるでしょう。

著者プロフィール:久松 剛(エンジニアリングマネージメント 社長)

 エンジニアリングマネージメントの社長兼「流しのEM」。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学で大学教員を目指した後、ワーキングプアを経て、ネットマーケティングで情シス部長を担当し上場を経験。その後レバレジーズで開発部長やレバテックの技術顧問を担当後、LIGでフィリピン・ベトナム開発拠点EMやPjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを行う。

 2022年にエンジニアリングマネージメントを設立し、スタートアップやベンチャー、老舗製造業でITエンジニア採用や研修、評価給与制度作成、ブランディングといった組織改善コンサルの他、セミナーなども開催する。

Twitter : @makaibito


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