「AIを入れたのに、仕事が変わらない」 企業が見落としている"使い方"
生成AIの導入は進んだ。だが、社員が本当に使いこなし、投資に見合う成果を生んでいるかを説明できる企業は少ない。AIの活用実態をどう可視化し、投資対効果へつなげるのか。プロダクトアナリティクスの実務家がその方法論を明かした。
生成AIを導入したものの、誰がどのように使い、それが成果に結びついているのかが見えない――。多くの企業ではそのような壁に直面している。実際、生成AIを「活用している」企業の割合で日本は欧米と遜色ない水準にある一方で、「期待以上の効果を生み出している」企業の割合となると、日本は大きく水をあけられている。
この効果創出の差を埋める鍵は、AIの利用実態をデータとして可視化することにある。ソフトウェアの利用状況を分析するサービスを手掛けるPendo.io Japanの谷口知生氏(Senior Director)が、活用度を測り、投資対効果を高める具体的なアプローチを紹介した。
ページ分析だけでは「体験」は見えない 4つのデータ活用が重要
米国ノースカロライナ州に本社を置くSaaSベンダー、Pendo。ソフトウェアの利用状況を可視化・分析する「プロダクトアナリティクス」の分野で、米国ではデファクトスタンダードとして知られる。日本市場への進出から約5年ながら、世界ではすでに1万4400社を超える企業がPendoを利用している。
Pendoが収集するデータは大きく4種類ある。クリックやページ遷移、滞在時間といった「定量データ」。アンケートやNPSなどの「定性データ」。ユーザーの画面操作を動画のように再現する「視覚データ」。そして2025年に追加された、AIへの入力と回答を捉える「プロンプトのデータ」だ。これらを組み合わせ、標準レポートとしてユーザーがどこでつまずき、どこで離脱しているかを特定できる。
分析はPendo自身のAIが担うほか、MCP(Model Context Protocol)を介して、「Google Gemini」をはじめ「ChatGPT」や「Microsoft Copilot」といった外部のAIツールからも、Pendoのデータを自然言語で抽出・分析できる。
ここで重要になるのが、「行動データ」と「ユーザー体験データ」の違いだ。谷口氏は以下のように説明する。
「多くのお客さまは、ページのアクセス分析は実行していても、実際のユーザーの体験までは把握できていないのではないでしょうか。クリックやフィードバック、AIの活用状況まで総合的に見て、ユーザー体験データとして企業がいかに活用するかが、今、求められています」
具体的なシステム改善にもつながっている。例えば、三井住友海上火災保険は代理店向けの営業支援システムにPendoを導入し、代理店がどう使っているかの実態を把握している。KDDIは全国のauショップの接客端末に導入し、勧めるべきオプションを各接客員が適切に提案できているかどうかを分析する。大和ハウス工業は、アカウント数2万に対して実利用率が低い物件ポータルについて、なぜ使われないのかを分析し、活用促進につなげている。
AIが「価値を生むか」を考えるための2つの評価軸とは
こうしたユーザー体験の可視化で培った手法を、PendoはいまAIの分析へと広げている。背景にあるのが、冒頭で触れた日本企業の課題だ。
「生成AIの活用状況は、日本も欧米企業に比べて遜色ありません。ただ、期待以上の活用ができているかで見ると、大きな開きがあります」と谷口氏は指摘する。生成AIの活用企業の割合で日本が5割超に達する一方、効果が期待以上と答えた企業は約1割にとどまり、5割前後の米国や英国に大きく後れを取っている。
では、何を測ればよいのか。谷口氏は、AIの評価軸を2つに整理できるとし、それぞれについて解説した。
AIのパフォーマンスというと、トークンの消費量や、正常に動いているかどうかといった点に目が向きがちだ。それらも重要だが、加えて「誰が使っているのか」「どう使っているのか」「それが効果を生み出しているのか」というユーザーに直結するデータの分析が必要だと谷口氏は語る。
システムが正常か、エラーは出ていないか、コストはどうか。こうした「システム側の指標」に、誰が何のために使い、役に立っているか、という「ユーザー側の指標」を重ね合わせる。この2つがそろって初めて、AI投資の実像が見えるという。
PendoのAIエージェント分析では、まず全体像として、どれくらいの会話が実行され、継続率やうまく回答できていない問題率がどの程度かを把握できる。どのAIモデルやサブエージェントが多く使われているかも把握でき、業務ごとに最適なAIを見極める判断材料になる。
さらに、入力と回答のデータが一定量たまると、自社の従業員がどのような用途でAIを使っているかをユースケースの一覧として可視化できる。気になる用途があれば、実際の会話にドリルダウンし、従業員が何を入力し、どんな回答を得たかまで確認できる。
回答がうまくいかない場合の原因究明も可能だ。問題率のレポートでは、正しいアウトプットが出せない原因が、ユーザーの入力内容に問題があるためか、それともAIモデル側の問題かを掘り下げられる。
そして、谷口氏が投資対効果の観点から必要性を挙げたのが、システムをまたいだ動線の分析だ。ある業務のスタートとゴールを定め、どの場面でAIが使われ、その前後でユーザーの操作がどう変わったかを追う。
谷口氏は、「AIエージェントを使っているユーザーの方が、所要時間もステップ数も短い。そうしたことをデータで可視化できれば、今使っているAIは価値を生み出していると、経営層に説明できる」と述べる。感覚ではなく数値で語れることが、次の投資判断を支える。
利用実態の可視化は、すでに導入したAI機能の効果検証にも使える。「まだ日本では実績事例が非常に少ない」としながらも、谷口氏はAIチャットbotに適用した一例を紹介した。
あるヘルプデスクでは、膨大な問い合わせに対応するためAIによる検索・回答機能を実装していた。だが、それによって有人対応のチケットが実際に減っているのかが、うまく見えていなかった。
そこでPendoのエージェント分析を適用し、AIが回答しているにもかかわらずユーザーがチケット送信に至った検索トピックは何かを可視化した。あわせて、チケット化と強く相関する曖昧な入力パターンを特定した。こうした分析から、成果はすでに見え始めている。解決につながらなかった検索のギャップをモデルに再学習させ、より良い回答へと改善を進めているという。どこで自己解決が失敗しているかを突き止め、手を打てるようになった格好だ。
「見るだけの分析」から「行動するAI」へ
Pendoはこの領域の機能開発を続けている。現在の分析は、ユーザーの入力と、それに対する回答を主な対象としている。今後はその間の過程、すなわちエージェントがどの情報源を探し、どう動いて回答にたどり着いたかという手順のトレースへと踏み込む。
「ユーザーが何を入力してどんな回答を得たか、だけではありません。その間にエージェントが何をして、どこで問題が起きているのか。そこまで深掘りして分析できるようにしていきます」(谷口氏)
関連する取り組みも動いている。一つは、社内で使うソフトウェアライセンスの活用状況を可視化する「コマンドセンター」だ。どのAIをどの部門がどれだけ使えているかを一覧でき、会社として認めていないツールの利用、いわゆるシャドーITの検知にも使える。
もう一つが、Pendoが検知したユーザーの課題をAIに渡し、改善策の実行までをAIどうしで完結させるツールキットの構想だ。いずれも、分析にとどまらず行動へとつなげる方向を指し示す。
AIをどれだけ導入したかではなく、それが現場でどう使われ、どんな価値を生んでいるか。その利用実態を可視化できるかどうかが、AI投資の成否を分ける。本講演は、そうした問いを企業に投げかけるものだった。
本稿は、2026年7月30~31日に開催された「Google Cloud Next Tokyo」(主催:グーグル・クラウド・ジャパン)の講演「Geminiの活用実態を可視化し、社員の活用を最大化するための有効施策」における内容を基に、編集部で再構成した。
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