「そのミス、自分のせい?」 情シスを追い詰める“個人のミス”に見える組織トラブル
工場停止、ネットワーク断、データ消失。情シスの現場では、ほんの一度の操作や判断が大きなトラブルにつながることがある。だが、その原因は本当に「担当者のミス」だけなのか。
情報システム部門に期待される役割が広がる一方で、止めてはいけない業務を確実に動かし続ける責任がある。どれだけ慎重に運用していても、ほんの一瞬の判断や操作が、会社全体を巻き込むトラブルにつながることもある。
そこでキーマンズネットでは「実録、情シス戦記 ~あの地獄のトラブルをどう乗り越えたか~」(実施期間:2026年5月20日~6月12日)と題して、情シス担当者を対象にアンケートを実施した。読者には,これまでの仕事で一番印象に残っている障害やトラブル、ヒヤリハットについて聞いた。
一見「個人のミス」に見えるトラブルだが……
寄せられた回答には、思わず「それは胃が痛い……」と言いたくなるような事例が並んだ。例えば、以下のような声だ。
・削除したのは過去ログのはずだったが、同じ階層にあった他部署の環境まで消えていた
・開発用のDBに戻すつもりが、リストア先は本番DBだった
・セキュリティ対策で通信を止めようとしたら、社内中がネットワークにつながらなくなった
さらに、「現場からの指示に従った結果、工場の一部設備が停止し、なぜか操作した本人が責任を問われた」という声も寄せられた。一見すると、担当者の確認不足や操作ミスによるトラブルに見える。だが、今回の回答を読み解いていくと、ただのヒューマンエラーとは言い切れない点が見えた。
トラブル事例1: 言われた通りにしたのに、工場が止まった
「現場監督する立場の人に、スイッチをOFFしろと言われ、その通りにしたら別の人から叱られた。工場の一部が止まった」。今回のアンケートでは、こんな板挟みの経験も寄せられた。
さらに回答者は、「私だけ、説教された。なぜ指示した人は知らない顔するのか、信じられなかった」と当時を振り返る。これは単純な操作ミスなのだろうか。問題は、スイッチを切った本人だけにあったのではない。誰が、どの設備を、どのタイミングで停止してよいのか。緊急時に誰が判断し、その判断に誰が責任を持つのか。そうしたルールが曖昧(あいまい)なまま現場が動けば、指示通りに操作した人が最後に責任を負うことになりかねない。情シスにとって怖いのは、正しい操作をしても、正しい結果になるとは限らない環境だ。
トラブル事例2: 削除コマンド1つで、他部署の環境まで消えた
別の回答では、ログ容量不足への対応中に、過去ログを削除するつもりでコマンドを実行したところ、ログフォルダと同じ階層にあった他部署の環境まで削除してしまったという。
コマンドの誤操作という意味では、典型的なヒューマンエラーに見える。だが、ここでも考えたいのは「もっと注意しましょう」で終わらせてよいのか、ということだ。例えば、本番環境での削除権限を誰が持っているのか。重要な操作に承認やダブルチェックは必要ないのか。削除対象を明示的に確認する手順はあるのか。人間が間違えることを前提に、間違えても被害が広がらない仕組みになっているか。この事例は、そんなことを考えさせられるケースだ。
トラブル事例3: セキュリティ対策をしたら、社内ネットワークが止まった
セキュリティ関連でも、胃が痛くなる事例があった。
ある回答者は、社内で使用していた機器が外部へ定期的に情報を送信していることを把握。その通信を止めるため、ルーターのフィルタリング設定を変更した。ところが結果は、想定とは正反対だった。社内の全てのネットワークを使用できなくなった。
セキュリティ対策そのものが間違っていたとは限らない。だが、本番環境への変更をどう検証するのか、影響範囲をどう限定するのか、問題が起きた際にどう切り戻すのか。こうした変更管理の仕組みがなければ、善意の対策であっても新たな障害を生み出してしまう。
トラブル事例4: バックアップがない。そのとき全社員が徹夜した
さらに深刻なのが、バックアップにまつわる事例だ。
システムトラブルによって、当日の販売や仕入、受注の全データが消失した。バックアップが取られていなかったため、トラブル復旧後、全社員が徹夜でデータを再入力することになったという。
回答者は当時について、「どこがトラブルの原因なのか全く不明で、全社からいつトラブル終了するのか、問い合わせが死ぬほど問い詰められた」と振り返る。バックアップは「取得しているか」だけではない。必要なときに、本当に戻せるのか。復元テストまでして初めて、バックアップは事業継続の仕組みになる。
トラブル事例5: 「前任者を呼ばないと直せない」システム
今回の回答には、担当者のミスではなく、組織に蓄積された“過去のツケ”がトラブルオのきっかけとなったケースもあった。
「古くて担当が居ないシステムが障害となり直せないと思った。過去の担当者(異動済)がなんとか思い出しながら復旧してくれた」担当者が異動、退職した途端に、誰も触れなくなるシステム。手順書がない。構成が分からない。なぜその設定になっているのかも分からない。こうしたブラックボックス化したシステムは、平常時には問題が表面化しなくても、障害が発生した瞬間に情シスを窮地へ追い込む。
「ヒューマンエラー」ではなく「エラーしても止まらない仕組み」を今回の回答を横断して見ると、幾つかの事例には共通する構造がある。それは、1人の判断や操作に、大きな影響範囲が与えられていたことだ。もちろん、確認不足や操作ミスがトラブルの直接的なきっかけになることはある。だが、「人は間違える」という前提に立つなら、個人の注意力だけに頼る運用には限界がある。
本番と開発環境を間違えない仕組み、重要操作を一人で完結させない仕組み、変更前に影響範囲を確認する仕組み、担当者がいなくても復旧できる仕組み、バックアップから実際に復元できる仕組み、緊急時に誰が判断するのかを決めておく仕組み。こうした「仕組み」があれば、同じヒヤリハットでも事故の規模を抑えられる可能性がある。
逆に、こうした仕組みがなければ、次に同じ現場に立つのは別の担当者だとしても、同じ“地獄”が繰り返される。
今回のアンケートで寄せられた声は、ただの「情シスの失敗談」ではない。自社のIT運用に、どこまで人が間違えることを織り込めているか。そのことを、あらためて考えさせられる事例だ。
後編では、今回寄せられた回答から、「もう二度と同じ地獄を見ないために、情シスが実践している対策」に焦点を当てる。
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IT担当者300人に聞きました
業務課題、注目のITツール……。話題には上るけれど、実際のところはどうなのか。キーマンズネット会員の声で知る、隣のカイシャのIT事情。読者のホンネを紹介します。
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