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スマートフォン内線化は、実現方式で何が違う?IT導入完全ガイド(4/5 ページ)

» 2014年01月14日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

キャリアが提供するFMCサービスの利用なら簡単だが制約も

 また、より簡便なスマホ内線化方法として、キャリアが提供するFMCサービスを利用する手もある。基本的には従来のPBXを残し、PBXとFMCサービスとが接続して、外部を含めたスマホとの内線通話だけを、月額固定料金でまかなえるサービスだ。

 これだとPBX所有にまつわるコスト削減ができず、しかも内線だけのシステムになってしまうが、最近ではPBX機能をキャリアのクラウド上のPBXサーバで担当する「仮想PBXタイプ」などと呼ばれるサービスも登場し、この場合は外線とのやりとりもサービス上で統合できる。

 上記のPBXサーバのクラウドサービスとよく似ているが、この場合はスマホは特定のキャリアと契約する必要がある。また、社内でのデータネットワークを用いるVoIP通話が前提とはならない(連携はできるが)ので、アプリ連携などを考えると応用性、拡張性に制限がありそうだ。

 ただし、そこに目をつぶれば導入が簡単でサポート窓口もキャリア1社に統合できるうまみも出てくるだろう。なお、スマホで会社の電話番号(03-xxxx-xxxxのようないわゆる0AB〜J番号)を引き続き利用して着発信したい場合の機能追加については追加料金が発生することがある。また既存PBXを残した運用を行う場合には、コスト増加が避けられない。

スマホに機密情報を残さないクラウド上の電話帳機能

 基礎解説の最後に、上記に記した以外の最新動向として注目したい機能と、200台弱規模の実際のスマホ内線化事例を紹介しておきたい。

 1つはスマホの業務利用には欠かせないセキュリティ上の工夫の1つといえる、電話帳(アドレス帳)の端末からの排除だ。もちろん個人用電話帳は標準のものをそのまま使ってよいが、会社の顧客などの機密情報については個人用電話帳ではなく、会社が指定したクラウド上の電話帳を検索し、そこからだけ業務用通話ができるようにしておくことができるようになった。

 万一の端末紛失時にも、端末内から顧客情報などが漏えいすることがない。Web上の電話帳サーバで適切なアクセス制御をすることで、第三者が端末を利用して情報を悪用することが防げる。

Web電話帳のイメージ 図5 Web電話帳のイメージ(出典:NTTコミュニケーションズ)

トータルなサポートサービスを利用して構築したスマホ内線化事例

 スマホ内線化はそれだけを目的にするよりも、他の業務やIT環境の課題を同時に解決できるように実施したいもの。しかしスマホの企業導入や運用に経験やノウハウは一般企業には蓄積されてない。そんなときはSIerのトータルなサポート力を借りてみるとよいかもしれない。

課題

 ある地方都市の総合病院ではPBXの老朽化と、従来利用してきた院内PHSシステムの将来性に不安を抱えていた。また一定の場所にとどまることが少ない医師や看護師が医療情報を共有するための合理的な仕組みを求めてもいた。スマホを活用した情報共有と院内の音声通話システムがその候補になっていた。

導入

 スマホ導入に経験を積むSIerに相談したところ、既存システムは多くのベンダーの製品が必要に応じて導入されており、ネットワークや電気配線が複雑に入り組み、複数のSIerやNIerが別々に保守管理を行っている状態であることが分かった。

 医療にかかわる機器への影響を考えると容易には手が出せない状態であったため、既存はそのままにし、ちょうど新設中の新棟でIPベースの音声システム(IP-PBXとIP電話)を導入し、既存棟の従来環境と連携させながら、長く利用できて情報共有が行いやすいスマホ内線化を導入することにした。

病院でのスマホによる内線システムの構築例 図6 病院でのスマホによる内線システムの構築例(出典:日立システムズ)

運用

 導入するスマホは200台弱。これにはスマホへの必要なアプリの導入、不必要なアプリの使用禁止などの設定がいる。また、9階建の建物のできるだけ隅々まで無線LANが利用できるようにするための電波環境の最適設計、停電時の通話経路確保やFAX利用のためのアナログ回線の用意など、さまざまな課題があった。

 しかし、端末やPBX、ルーター、ネットワークなど多様なベンダーとの調整、折衝をSIerが代行してくれたためプロジェクトはスムーズに進んだ。また、端末キッティングはSIerが担当し、設定が完全に済んだ状態でスマホが納品された。同病院では思惑通りの業務効率化とトラブルのない運用開始ができて満足している。今後はナースコールなどさらに応用的な音声とデータの統合利用システムに取り組む予定だ。

 電話システムは従来総務部門が管理し、ITシステムは情シス部門の管理という体制が普通。病院のような特殊機器を利用する場合には専門業者が入り込む。関係者の相互理解が深まらないと、どんどん複雑化して無駄の多いシステムになりがちだ。重要なシステムだからと自社内部での設計、構築にこだわらず、客観的な目で見られる第三者にプロジェクトを任せてみることも検討したい。

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