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脱Excelの移行先トップ3は? メリット、注意点、移行のコツを徹底解説DXリベンジャーズ特別編「脱Excel」/後編

脱Excelは単なるツールの置き換えではなく、ビジネスプロセス全体の見直しやDXへの足掛かりとして考えることが大切です。Excelの移行先トップ3や、移行成功のコツを解説します。

» 2023年12月15日 07時00分 公開
[西脇 学DLDLab.]

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脱ExcelがDXへの足掛かりになるワケ

 「脱Excel」という動きは、単なるITツール選定の話に捉えられがちで、DXとは無縁なものと見なす向きもあります。しかし、従来の業務プロセスや思考パターンを根本から見直し、デジタル技術を活用して業務を効率化し、ビジネスモデルを革新するという観点から脱Excelを考えると、その重要性が鮮明になるでしょう。

 例えば、社内で「Excel使用禁止」という思考実験を行ってみた場合、多くの企業で業務プロセスに深刻な影響が出ることが容易に想像できます。すでにExcelが業務の基盤に組み込まれており、その依存度は非常に高いものです。従って、Excelにまつわる業務の再検討は、事業の運営において重要な要素を含んでいる可能性があります。

 さらに、Excelからの脱却は業務効率化やデータ管理の改善だけにとどまらず、データの可視化や分析力の向上、さらには意思決定プロセスの最適化にまで影響を及ぼすこともあります。このような広範な影響は、DXの目指すところであり、企業が新たなデジタルの波に乗るための一歩となります。

 脱Excelを単なるツールの置き換えと考えるのではなく、ビジネスプロセス全体の見直し、そしてDXへの足掛かりとして捉えることが重要です。企業の規模や事業内容に関わらず、Excelへの依存を見直すことは、より包括的で効果的なデジタル変革の第一歩となるでしょう。

脱Excelの移行先トップ3を徹底分析

 キーマンズネットの調査では、Excelの移行先について述べられています。移行先トップ3と、各メリット、デメリット、移行のコツを見ていきましょう。

1位 Microsoft Access(35.7%)

 ビジネスの成長と共に企業が扱うデータ量は増加し、処理は複雑化します。特にExcelのスプレッドシートは、コンパクトなデータ管理や計算に適しているからこそ、さまざまな場面で活用されています。しかし、大量のデータや複雑なデータ処理に対応するには限界があります。この壁にぶつかった場合、データ管理方法を再考する必要があります。

 このようなシナリオでExcelから「Microsoft Access」(以下、Access)への移行は有効な解決策の一つです。Accessに移行することで、複雑なクエリを実行し、大量のデータを効率的に処理できます。また、Accessはデータと入出力機能の分離が容易であるため、フォームやレポートの作成を通じて、データの視覚化と操作性の向上を図れます。帳票関連の機能が充実していることもAccess導入の理由となるでしょう。

 ExcelからAccessへの移行には、データ管理ツールを変更すること以上の意味があります。具体的には、データ構造を体系的に管理し、ビジネスプロセスを合理化することに取り組む機会となります。データの一元管理によって情報の整合性を保ち、エラーリスクを低減することは、さらなるビジネス成長を促進することにつながり、未来の仕組みを考えることでもあります。

 しかし、ExcelからAccessへの移行には専門的な知識が要求されるため、適切なトレーニングとサポートが必要になることは認識しておきましょう。

2位 Google スプレッドシート(25.6%)

 コロナ禍でビジネス環境が急速に変化したことをきっかけに、場所や時間に縛られることなく業務を進めることができるサービスの需要は高まりました。多くの組織はこれらのニーズを満たすため、新しいツールへの移行を検討しています。「Google スプレッドシート」はExcelと同様の機能を提供しつつ、共有や共同編集をスムーズに行うことが可能であるという点において、優れた選択肢となります。

 Google スプレッドシートは、Excelと似たインタフェースを持ち、表計算の基本的な機能を提供しています。そのため、Excelユーザーでも比較的短時間で慣れることが可能です。さらに、リアルタイムの共同編集、容易なアクセス権の設定、どこからでもアクセス可能なブラウザベースのクラウドサービスといった特徴があります。現代の働き方にマッチした効率的な共同作業を実現するソリューションです。

 しかしながら、ExcelからGoogle スプレッドシートへの移行ではマクロの移行に注意が必要です。「Google Apps Script」でExcelマクロを引き続き稼働させるためには変換が求められるためです。

 さらに、セキュリティとプライバシーの保護、そしてユーザートレーニングには注意が必要ですが、これらを適切に管理することができれば、チームの生産性を高めることができるでしょう。このトピックについては公式サイトで詳しく述べられています。

3位 BIツール、セルフBIツール(合計24.9%)

 ビジネスにおけるデータ利用は年々進化しています。複数のデータソースからの集計や分析では、従来のExcelベースのアプローチでは限界があります。このような状況では、大量のデータを迅速に処理し、複雑な分析を可能にするBI(Business Intelligence)ツールへの移行が検討されます。正しく活用すれば、企業はデータを可視化し、新たな気付きを基にした意思決定ができるようになるでしょう。

 Excelから高価なBIツールへ移行することへの期待は、単にデータ処理ツールを変えることではなく、データドリブンな意思決定を可能にすることで、企業の戦略策定や業務遂行の質を向上させることにあるとされています。

 また、「Snowflake」のようなデータウェアハウスサービスを活用することも解決策の一つです。Snowflakeは、大量のデータを高速処理し、必要に応じたスケールアップやスケールダウンが可能なクラウドサービスです。複雑なデータの前処理や整理はsnlowflakeで高速処理し、そこからの分析をBIツールで実行するとスムーズです。

 BIツールへの効果的な移行では、データソースの特定、データのクレンジングや整形、BIツールの選定と導入、専門スタッフのトレーニングなど、さまざまなステップを慎重に進める必要があります。これだけの人や費用、時間を投じて、果たしてどれだけの効果を出せるのでしょうか。ツールをそろえることで満足するのではなく、最後には経営者がデータによる意思決定をできることが最重要課題として浮き彫りになるでしょう。

コラボレーションを推進するSaaS

 Google スプレッドシートの説明と重なりますが、コラボレーションができるSaaSが多数登場しています。働く場所、働き方の自由度は働き手の企業選びにおいても重要性が増していることから、経営課題としてこの動きに取組む必要があります。こうしたツールを組み合わせることで、効率的な業務遂行が可能となるでしょう。

 導入する際は、自社のニーズや目的を明確に定義し、ルールを定め、それに基づいて最適なツールの選定を行うことが成功の鍵となります。また、SaaSが社内で増えるとアカウント管理があいまいになってしまい、セキュリティやコスト管理で問題になることは見落とされがちです。

 こうしたツール選択の注意点については、キーマンズネットで連載中の久松氏による「ITサービス選定マニュアル」も参考になります。

中小企業におけるリープフロッグの機会

 中小企業は、その規模の小ささゆえに、大企業よりも迅速に変革を遂げられます。

 「リープフロッグ現象」という概念をご存知でしょうか。社会インフラ整備が遅れている新興国が、最新の技術導入を成功させることを意味します。過去の遺産に縛られず、最新技術をそのまま受け入れることで、先進諸国に先んじて金融や行政手続きがデジタルによって高速に処理され、爆発的に普及するといった成果が注目されています。

 中小企業でExcelのような既存ツールにおける過去の資産が少なく、適用範囲が狭い状況ならば、最新ツールへの移行は大きな競争力を生み出すチャンスとなるでしょう。少人数であれば試験導入を開始するコストが小さいこともメリットと言えます。

 その結果、新しい市場や顧客層へのアプローチが容易になり、業務効率化を通じてコスト削減を実現する他、社内外の壁を超えたバリューチェーンの構築も期待できます。そこまでを視野に入れて脱Excelに挑戦するのもよいでしょう。

デジタル変革を推進する組織と文化

 今回は脱ExcelをきっかけとしたDXへの道を考察しましたが、やはり技術やツールの導入だけでは、真のデジタル変革は達成できません。従業員一人ひとりがデジタル時代に求められるスキルや知識を身につけること、それを活用して業務を進めることが必要です。そのため、従業員をサポートする組織文化の形成に積極的に取り組むことが不可欠です。

 新しいツールや技術がもたらす変革を真に受け入れ、それをビジネスの成長につなげるためには、組織内の人々により生まれる推進力が必要です。技術の導入を成功させるための教育やトレーニング、そして新しい方法やアイデアを受け入れる柔軟な組織文化の形成に注力していきましょう。

 デジタル技術の進化は、これからも止まることはありません。新しい市場の開拓、独自のビジネスモデルの確立、そして既存の業務の最適化など、無限の可能性が広がっています。しかし、これらの変革を成功に導くためには、前述のような人や文化の力を最大限に活用することが重要です。

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著者プロフィール:西脇 学(DLDLab. 代表)

 大学卒業後は電源開発の情報システム部門およびグループ会社である開発計算センターにて、ホストコンピュータシステム、オープン系クライアント・サーバシステム、Webシステムの開発、BPRコンサルティング・ERP導入コンサルティングのプロジェクトに従事。

 2005年より、ケイビーエムジェイ(現、アピリッツ)にてWebサービスの企画導入コンサルティングを中心に様々なビジネスサイトの立ち上げに参画。特に当時同社が得意としていた人材サービスサイトはそのほとんどに参画するなど、導入・運用コンサルティング実績は多数に渡る。2014年からWebセグメント執行役員。2021年の同社上場に執行役員CDXO(最高DX責任者)として寄与。

 現在はDLDLab.(ディーエルディーラボ)を設立し、企業顧問として、有効でムダ無く自立発展できるDXを推進している。共著に『集客PRのためのソーシャルアプリ戦略』(秀和システム、2011年7月)がある。

Twitter:@DLDLab


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