AI議事録「精度98.86%」だけで決められない 5製品の比較表で分かる、選定の分かれ目
文字起こしの精度は各社が高水準をうたうが、指標も測定条件もそろわず、公開された数値だけでは優劣を判断しにくい。ならば情報システム部門は何を基準に選ぶべきか。Otolio(旧スマート書記)やYOMEL、Notta、Klangと、APIで提供される音声認識モデルを、データの扱い、会議環境との連携、文字起こしの「その後」など5つの視点で比べ、選定の勘所を探る。
会議の音声を聞き取り、話者を分け、日本語も英語混じりの発言もそのまま文字にする。AI議事録の文字起こしは、ここ数年で各社が実用の水準をうたうようになった。ただし各社が掲げる精度は、測定した指標も音源も言語もばらばらだ。
直近では2026年9月にMetaの「Muse Voice Transcribe」が公開された。Artificial Analysisが英語音声で実施したストリーミング評価では、最終文字起こしの単語誤り率(WER)3.1%を記録した。国内でも提供されている「Notta」は、条件の良い音声で最大98.86%の認識精度をうたう。WERは低いほど良く、認識精度は高いほど良い。これらは音源も言語も測定方法も異なり、そのまま比べられる数字ではない。
では、情報システム部門は何を基準にAI議事録を選べばよいのか。数値で差をつけにくいなら、目を向けるべきはその周りだ。
本稿では、議事録SaaSである「Otolio(旧スマート書記)」「YOMEL」「Notta」「Klang」などと、APIで提供される音声認識モデルであるMuse Voice Transcribeを念頭に、AI議事録を選ぶ際に確認したいポイントを、編集部の視点で5つに整理する。公開された数値だけでは選べないなら、決め手はどこにあるのか。
選定を分ける5つの視点
確認したい視点は5つある。録音したデータがどこへ行くのか、既存の会議環境とつながって回るのか、そして文字起こしの後にどこまで業務が片付くのか。議事録SaaSと、APIで提供される音声認識モデルという違いも意識しながら、主要なツールを具体的に比べていく。
視点1 録音データはどこへ行くのか
情シスが最初に気になるのは、会議の音声と文字起こしがどこに保存され、モデルの学習に使われるのかどうかだ。会議には人事や取引先の情報が含まれ、扱いを誤れば情報漏えいに直結する。
エピックベースが提供するOtolioは、情報セキュリティの国際規格「ISO 27001」の認証を取得し、日本国内のデータセンターで暗号化して保管するとしている。YOMELも同様にISO 27001を取得し、Webサービスや音声認識、話者分離を国内で処理する一方、要約などのAI支援機能では国内外の外部生成AIを利用し、標準の利用環境では処理に伴ってデータが一時的に海外へ送られる場合がある。国内リージョンに限定した環境は個別相談としている。入力した音声とテキストをAIの学習に使わない点は明記している。
海外発のKlangは、会話データを学習に使わないとする一方、データは欧州域内のデータセンターに保管する。NottaはデータをAWSの東京リージョンに置くとしている。音声認識では、国内の第三者パートナーが音声データと認識結果からランダムに抽出したデータを学習に使う場合がある。一方、エンタープライズプランとBusiness Plusでは「AIの学習に使われない」環境を提供する。音声認識以外のAI機能では、全プランで顧客データをモデルの学習に提供しないとしている。
基盤となる音声認識モデルをAPIで使うMuse Voice Transcribeの場合は、音声を提供元であるMetaのAPIに送って処理する。モデルの重みは公開されておらず、自社の環境に閉じて動かせるわけではないため、送信先とデータの扱いを自社で確認し、管理する必要がある。なお、Meta Model APIでは、対象アカウント向けにデータを保持しない「ゼロデータ保持」の処理も用意されている。
視点2 ベンチマーク王者は、日本語会議でも通用するのか
精度の数値が高くても、自社の会議で使えるかは別の話だ。日本語特有の言い回し、複数人が同時に話す場面、業界の専門用語をどこまで拾えるかで、現場の使い勝手は変わる。
国内向けに提供される議事録SaaSの中には、日本語の会議への対応を重視し、社内の固有名詞を辞書に登録できる製品もある。多言語の会議が多い職場では、Nottaのように58言語の文字起こしと42言語の翻訳に対応し、話者を聞き分ける製品もある。Klangも複数の言語に対応する。
一方、Muse Voice Transcribeは、Artificial Analysisが英語音声で実施した評価で単語誤り率3.1%を記録し、20人を超える話者を分離できる。ただし日本語での数値は公表されておらず、その素の精度が、そのまま自社の会議での使い勝手につながるとは限らない点には注意が必要だ。
視点3 既存の会議環境と連携して運用できるか
議事録AIは、いくら正確に文字を起こせても、日々の会議に組み込めなければ使われない。「Microsoft Teams」や「Zoom」「Google Meet」といった会議環境と自動でつながるか、利用者の権限やアクセスをまとめて管理できるかが、全社で運用する際の負担を左右する。
この点は議事録SaaSに強みがある。Nottaは会議にbotが参加し、Microsoft TeamsやZoom、Google Meetの音声をリアルタイムに文字起こしする。Otolioも主要なWeb会議で使える他、「Salesforce」や「Google Workspace」と連携する。YOMELも会議ツールを問わず使えるとしている。APIで提供される音声認識モデルは、連携や権限管理の仕組みを自社で用意することが前提になる。強力な聞き取りの部品であっても、そのままでは日々の会議の流れには乗らない。
主要なツールを、確認できた事実に基づいて並べると、それぞれの得意が見えてくる。上の4つはすぐ使える議事録SaaS、最下段はAPIで提供される音声認識モデルだ。
| ツール(提供元) | 対応言語・話者識別 | 会議連携 | 文字起こしの「その後」 | データ・セキュリティ | 価格 |
|---|---|---|---|---|---|
| Otolio(旧スマート書記/エピックベース) | 日本語、英語、中国語、韓国語、ベトナム語、フランス語、スペイン語、ドイツ語に対応。話者分離あり | Zoom/Teams/Meet/Webexなどで録音可。Salesforce、Google Workspace、kintoneなどと連携 | 「AIアシスト」で自動要約・清書・重要事項抽出 | ISO 27001取得。国内データセンターで暗号化保管 | AI利用量に応じたクレジット制。金額は非公開(要問い合わせ) |
| YOMEL(PKSHA Infinity) | 日本語・英語に対応(英語モードは有料オプション)。日本語・英語以外は英語に翻訳して出力。話者識別あり(声色から自動判別) | どのWeb会議ツールでも利用可 | AIチャットで論点整理・対応事項抽出・議事録反映。ある導入事例では議事録作成の50%削減を実現 | ISO 27001取得。Webサービス・音声認識・話者分離は国内、要約などは既定で国内外の外部生成AIを利用。処理時にデータが一時的に国外へ送られる場合があるが、データ自体は国内に保存 | 月額2万8000円から(30時間/月、税別)。利用時間枠に応じた複数プランを用意。無料トライアルあり |
| Notta(Notta) | 58言語の文字起こし、42言語の翻訳、話者の聞き分け。高音質で98.86%とされる | botがZoom/Meet/Teamsに自動参加しリアルタイム文字起こし | 自動要約に対応 | 東京のデータセンター(AWS)に保管。通常プランは音声認識の改善に音声・認識結果の一部を利用、エンタープライズとBusiness PlusはAIの学習に使われない。要約AIには学習データ提供なし | 無料プランあり。有料は月1000円台~(年払い・税込) |
| Klang(Klang AI AB) | 日本語ほか多言語。話者を自動識別 | オンライン会議に自動参加し録音・文字起こし | 要約、決定事項・ToDoの抽出、過去会議の横断検索 | 欧州域内のデータセンターに保管。ISO 27001:2022を取得。会話データを学習に利用しない | 無料プランあり。Proは1人当たり月17.5ユーロ(12カ月契約、VAT込み) |
| Muse Voice Transcribe(Meta・API) | 70言語超で学習、25言語で検証済み。言語混在に対応し、20人超の話者を分離。英語音声を使った外部評価で単語誤り率3.1% | APIのため自社実装が前提 | 文字起こしが中心。要約などは別実装 | Meta Model API/自社アプリ経由。重み非公開で音声を提供元に送信して処理。対象アカウント向けにゼロデータ保持の処理も提供 | Meta Model APIで1時間0.18ドル |
視点4 文字起こしの「その後」がどこまで片付くか
キーマンズネットが2026年に実施した議事録AIの利用状況調査では、全社導入と一部導入を合わせた導入率が63.3%に達した。ただし利用の実態としては、AIの出力をそのまま使うのではなく、人が確認したうえで使う運用が中心だという。文字起こしはあくまで出発点であり、要約やタスクの整理までどこまで自動で片付くかが、業務の効率を左右する。
この「その後」の作り込みは、議事録SaaSで進んでいる。YOMELは会議のログを基に対話できるAIチャットを備え、次回会議の論点整理や、誰がいつまでに何を実施するかといった対応事項の抽出、議事録への反映までを支援するとしている。三井不動産リアルティの導入事例では、議事録作成業務を約50%削減した。Otolioも自動で要約や清書、重要事項の抽出を実施する「AIアシスト」を備える。Klangは要約に加え、決定事項やToDoの抽出、過去の会議を横断した検索に対応する。APIで提供される音声認識モデルは文字起こしが中心で、要約やタスク抽出は別の実装に委ねられる。
視点5 “1時間数十円”のAPIでも、高くつくかもしれない
最後に確認したいのは、コストをどう見積もるかだ。
議事録SaaSは利用者ごと、または利用量に応じた課金が中心だ。NottaやKlangは無料プランを備える一方、有料プランの料金体系や契約期間は異なる。YOMELのように、月間の利用時間枠に応じた料金プランを設ける製品もある。
Otolioは利用人数ではなくAIの利用量に応じたクレジット制で、金額は公開しておらず問い合わせが必要になる。APIで提供される音声認識モデルは従量課金で単価が低く、1時間当たり数十円規模で使える例もある。ただしこの価格は聞き取りの処理に対するもので、議事録として使える形に仕上げる実装や運用の費用は別に見込む必要がある。
5つの視点を並べて見えてくること
5つの視点を並べると、公開された精度の数値だけで製品を選ぶのは難しいことが分かる。判断を分けるのは、データの扱い、既存環境との連携、そして文字起こしの後の活用機能、つまり日々の業務にどこまで組み込めるかだ。高い認識精度をうたう音声認識モデルでも、APIとして提供される場合は、要約やタスク抽出、権限管理などを別途実装する必要がある。同じ調査でも、AIの出力を人が確認して使う運用が実態だとされる。その確認と修正をどれだけ軽くできるかが、製品ごとの評価の分かれ目になっている。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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