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ITリテラシが高いはずの若手がハマる「働き方改悪」、脳機能から見る組織の課題とは

ソフトウェア市場の拡大により、経費精算など特定の業務に特化した業務用アプリケーションが多数登場している。中には、会議室を予約するためだけのアプリケーションなどもある。ツールが分散した結果、業務を阻害している可能性もあるようだ。

» 2020年02月06日 16時30分 公開
[野依史乃キーマンズネット]

 Dropbox Japanが「企業の創造性とITツール利用」に関する実態調査の結果を発表した(調査期間:2019年10月25〜26日、国内ナレッジワーカーを対象にオンライン調査、有効回答数800件)。世代間のITツールの活用傾向の違いが明らかになった他、最新脳神経科学研究の視点から「思った通りだ」と言いたくなるような指摘があった。

使いこなし過ぎて不満噴出の若手社員、使えるが効果を実感しないシニア社員

 ITツールの利用で業務効率が上がったと感じているのは全体の39.3%だった。このうち、20代だけで見てみるとコミュニケーション効率の改善を感じる傾向が強く、「仕事相手とのやりとり、コラボレーションがしやすくなった」(56.8%)「業務上のやりとりにおけるストレスが軽減した」(45.5%)という結果となった。50代で同じ項目を見るとそれぞれ30.7%、31.7%と、26.1ポイント、19.4ポイント低くなっており、世代間のギャップが明らかとなった。

ITツール利用効果に対する調査結果、世代間ギャップが明らかに

 しかし、コミュニケーションやコラボレーションの利便性を感じているという回答が多い半面、ツールを多く活用している20〜30代の若手社員を中心に業務に弊害をもたらしているという意見も寄せられた。「業務時間外のメール・チャット対応が増えた」(37.3%)、「欲しい情報が探しにくい」(32.0%)、「ツールが多すぎて気が散る」(30.9%)など、ツール過多の現状では、集中して業務に取り組むことが難しいという側面も持っているようだ。「業務時間外のメール・チャット対応が増えた」については、20代で47.7%、30代で44.7%が回答し、20代はさらに「ツールが多すぎて気が散る」が37.5%という結果になった。これらの回答ではシニア層と比較すると10ポイント前後の差が出ている。

法政大学 経営学部 准教授 永山晋氏

 若手社員を中心とした現環境への不満が明らかとなった結果を受け、組織と創造性についての研究に取り組む法政大学の永山 晋氏(経営学部 准教授・商学)は「脳神経科学の研究成果と照らし合わせてみても、通知が多いというツール状況はアイデア創出にとって良くない環境だ。また、専門的に特化した知識を生かせるのはシニア層よりも若手社員という研究結果もある。コミュニケーションツールの使い方に世代間ギャップがあるというのは組織として望ましくない」と指摘する。

 では具体的に、現状のツールが脳機能にどう影響を与えているのだろうか。

脳の3機能に悪影響を与えるITツール

 永山氏によると、現状の複雑なITツールは脳の「デフォルトモードネットワーク(DN)」「エグゼクティブネットワーク(EN)」「セイリエンスネットワーク(SN)」と呼ばれる3つの機能を阻害しているという。タスクにとらわれずあらゆる分野についてぼんやりと思考しているときに機能するDN、特定のトピックについて言語化する際に機能するEN、2つの機能をバランスして雑談などで使われているSN。3つの機能が有機的に働いたときに創造性が高まりアイデアが生まれる。

 「通知過多で作業が中断される状況ではENの機能が阻害され、通知対応に追われ思考する時間が減るとDNが働かなくなる。チャットツール導入で連絡が機械化され業務に関する雑談時間が減ってしまったのであればSNの機能を生かせていないということ。ツールの複雑化によってアイデアの出にくい環境になってしまっている可能性がある」(永山氏)

好調な企業の8割がオープンコラボレーションを重視 ツールが高める創造性

 さらに調査では、回答者自身が所属する企業、組織について「事業の収益性」「事業の成長性」「従業員の業務に対する満足度」を高く評価している回答者ほどオープンコラボレーションを重視する傾向にあることも分かった(平均81.7%)。

オープンコラボレーションを重視しているかに対する回答

 オープンコラボレーションがなぜ創造性を高めるのか。永山氏は「業務における創造性の発揮は年齢によってどういう知識を持つべきか変化した。特定のトピックについて深い専門知識を生かせるのは、実はシニア社員でなく若手社員。シニア社員は深さよりも分野への広い理解が業務に役立てられる。要するに、オープンコラボレーションやコミュニケーションを強化させ、若手社員とシニア社員が協力する必要がある。また、ツールの使い方に世代間ギャップがある組織は改善しなければならない」と話す。

Dropbox Japan ジャパン マーケティング リード 上原正太郎氏

 Dropbox Japanの上原 正太郎氏(ジャパン マーケティング リード)はこの調査結果を受け、「総じてITツールへの理解は進んでいる」としながら、「私も打ち合わせに1時間出席して自席に戻ると大量の通知に目を通すことに時間を費やすことがしばしばある。人間は一度途切れた集中を取り戻すためには平均23分かかるという。今後、ユーザーがツールとどう付き合っていくか考えていかなくてはなりません」と課題観を新たにした。さらに上原氏は「業績が好調な企業の8割がオープンコラボレーションを重視しアイデア創出を行っているという結果から、オープンコラボレーションは創造性を高めるということが実証された。アイデアの共有やひらめきを得られるだけでなく、状況の把握やステータスの可視化によって組織内での協力体制も構築できる」と続ける。

 また、アイデア創出に必要な情報交換の場について調査したところ「自席での雑談」という回答が37.4%と最も多かった。この結果に対して上原氏は、「20代と50代の社員がデスクで雑談するのはなかなか難しいかもしれないが、ツールの活用で溝が埋められているのかもしれない」と話す。

情報交換の場に対する回答

 Dropbox Japan社長の五十嵐 光喜氏は今回の調査結果に対し、「今後ツールを提供する側は、よりユーザーの使いやすさに着目する必要がある。世代間ギャップを作らないためにリテラシーを問わない使いやすさ、通知で業務を阻害しないことといったポイントを押さえて企業システムに組み込んでいきたい」と語った。

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