RPAの導入を成功させるためには、コストの壁だけでなく、運用面の壁も想定しなければならない。トレンドにならって「とにかく導入」してしまうのではなく、どの業務をなぜ効率化するのかを考えることが、導入成功の肝となるだろう。
RPA(Robotic Process Automation)は、定型的な入力作業などを自動化することで業務の生産性向上や省力化を実現する技術として注目を集めてきた。2020年、コロナ禍によって世界中の企業がイレギュラー対応に追われた中で、RPAの活用はどこまで進んだのか。
本連載(全5回)では、キーマンズネット編集部とITmedia エンタープライズ編集部が合同で実施したアンケート調査(実施期間:2020年9月16日〜10月8日、有効回答数913件)を基に、RPAの導入率や導入の進み具合、得られた成果、導入しない理由など、企業におけるRPAの活用実態を解説する。
回答者の業種は「情報・通信・IT」が36.9%、「製造業」が33.8%、「サービス業」が16.1%、「商社・小売り」が7.3%、「金融」が1.3%であった。企業規模は、従業員数「500人未満」の中小企業が43.8%、「500人以上1000人未満」の中堅企業が12.6%、「1000人以上」の大企業が39.9%という内訳だった。なお、グラフで使用している数値は、丸め誤差によって合計が100%にならない場合があるため、ご了承いただきたい。
第3回「RPAの“魔法”は万能ではない? 検討企業の懸念と導入企業の不満」では、RPAの導入を検討している企業の今後の動向やRPAに求めているものを中心に、導入企業の実態を取り上げ、導入検討企業の懸念と導入企業の課題が主にコスト面で合致していることが分かった。本稿では、RPAを導入した企業が感じているデメリットについて、運用の課題を中心に取り上げたい。
第3回に紹介したようなコストの課題を乗り越え、RPAの導入を決めた企業はどういった点を課題と感じているのだろうか。RPAを導入したことでどういったメリット、デメリットがあったかを尋ねたところ、下記のようなコメントが寄せられた。
比較してみると、メリットや成果を享受している声の多くでは、RPAの導入前に業務見直しをしたり、対象業務を絞ったりしている。その一方でデメリットを感じている声の多くではそれらのことができていないことが分かる。
中でも象徴的なのは「担当レベルの作業を全てRPAにしてしまった結果、部門共通業務の標準化や無駄な業務の断捨離が全くできなかった」「RPAを導入しろと経営層にいわれて入れたが一部業務以外で効果を発揮していない」というコメントだ。これは、RPAを“魔法のつえ”だと思い、導入を急いでしまったことによる功罪だろう。
第3回の記事でも取り上げた検討中企業の懸念として「対象作業の切り出しが難しい」という声もあった。確かに、業務効率化や自動化は企業のIT投資のトレンドとなっている。しかし、「なぜその業務を効率化したいのか」「自動化の目的は何か」を明らかにせずに取り組むと、せっかく投資したところで大きな効果を発揮しないままになってしまう。
RPA導入による成果を確実なものとするには、対象業務の切り出しや業務そのものの見直しの他、RPAの管理、開発部門や扱える人材を確保しておくことも重要だ。RPAを導入したものの思ったような成果を上げられなかった企業の中には「RPAが停止するとIT部門が別業務と並行して対応しなければならず思っていたより人手がかかっている」「開発できる人が少なく、トラブルが起きた時も対応に追われてしまう」といった声も少なくない。
RPAの「トライアル実施中」「トライアル完了」「本格展開中」「本格展開完了」している企業に、RPA導入をけん引する部署を尋ねたところ、「情報システム部門」(203件)が最も多かったが「RPA推進部門」(91件)、「デジタルトランスフォーメーション部門」(22件)と業務改善を担う独立部署を設立している企業も見受けられた。
先述した通り、RPAの導入を成功させるためには、コストの壁だけでなく、運用面の壁も想定しなければならない。トレンドにならって「とにかく導入」してしまうのではなく、どの業務をなぜ効率化するのかを考えることが、導入成功の肝となるだろう。
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