AI活用の「個人技」では会社は変わらない 月320時間削減の分かれ目

生成AIの業務活用では、社員がAIを使って個々の作業を効率化する取り組みが多い。引越会社のアップルはそこから一歩踏み込み、AI活用を業務設計の問題として捉えた。月約320時間の工数削減につなげたポイントとは。

 生成AIの業務利用では、社員一人一人がAIを使って作業を効率化する取り組みが目立つ。一方、個人の使いこなしだけでは、業務フローそのものは変わりにくい。引越会社のアップルは、AIを個々の作業支援にとどめず、業務そのものを自動化の対象として見直した。

 同社の業務には、一つ一つは小さくても、件数が増えることで工数が膨らむ定型作業が残っていた。例えば、比較サイトや仲介業者から届く案件を社内システムへ登録する作業には、従来1件当たり約5分を要していたという。この他、アンケートはがきのデータ処理、長距離配車、請求書PDFの読み取りや仕分けなど、営業、経理、バックオフィスにまたがって手作業が発生していた。

 では、アップルはどの業務をどう見直し、月約320時間の削減につなげたのか。

月320時間削減の起点になった業務設計とは

 アップルは2026年5月、社長室直下にCAIO(最高AI責任者)を新設し、谷和俊氏を起用した。AI活用を特定部門や個々の社員だけに任せるのではなく、営業や経理、バックオフィスなど複数の業務を横断して見ながら、自動化できる定型作業を洗い出していった。

 対象ごとに大規模なシステム開発を外部へ委託するのではなく、自動化ツールを社内で内製した点も特徴だ。現場で繰り返し発生している作業を拾い上げ、工数の大きいものから順に自動化していく進め方を取った。

 同社によると、削減した工数は、比較サイトや仲介業者からの案件登録で月約150時間、アンケートはがきのリネームとデータ投入で約70時間、長距離配車業務で約30時間、請求書PDFの読み取りと勘定科目ごとの仕分けで約11時間、顧客アンケート処理で約10時間だった。受注サマリーや各種成績表の自動生成なども合わせると、削減時間は月約320時間に達し、同社は約2人月分に相当するとしている。

アップルが自動化した業務と月間削減時間 アップルが示した自動化対象と月間削減時間。合計で月約320時間としている(提供:アップル)

 月150時間規模の案件登録だけでなく、月10~30時間程度の作業まで対象にしている点も特徴だ。個々の作業を効率化するのではなく、業務全体を見渡して積み上げ型で自動化していることがうかがえる。CAIOの設置は、そのための体制づくりの一つだ。だが、この事例の本質は役職新設そのものではなく、AI活用を誰かの「使いこなし」に委ねず、どの業務を残し、どの業務を自動化するかという設計の問題として扱ったことにある。

 AI活用が広がるほど、「社員がAIを使えるか」だけでなく、「業務のどこをAIや自動化に任せるのか」という設計が重要になる。アップルの事例は、AI活用を個人技で終わらせず、業務の組み立てそのものに踏み込む一つの進め方を示している。

 なお、本稿は2026年8月26日に株式会社アップルが発表したリリースを基に再構成したものだ。

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