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「満足度は高いが導入時は混乱」 導入前に知りたい電子契約システムの注意点電子契約システムの利用状況(2024年)/後編

前編は、企業における電子契約の利用状況やシステム導入状況の概要を紹介した。後編は、導入の目的や製品の選定ポイント、満足度、導入で苦労したことを紹介する。

» 2024年05月30日 10時00分 公開
[キーマンズネット]

 働き方の変化や法整備などの環境変化によって盛り上がりを見せる「電子契約」市場。電子契約システムの導入企業はどのような目的で導入し、想定通りの成果が得られたのだろうか。

 前編は、「電子契約システムの利用状況に関する調査」(実施期間:2024年4月19日〜5月10日、回答件数:251件)を基に、企業における電子契約の利用状況やシステム導入状況の概要を紹介した。後編では、中小企業と大企業での意識の差や、システム選定のポイントが明らかになった。

電子契約システム、何を軸に選んでいるか

 前編で全体の4割で導入されていることが明らかになった電子契約システム。導入目的を聞いたところ「印紙税や郵送費などコスト削減」(63.7%)、「契約書類の管理の効率化」(55.5%)、「紙書面での契約に係る事務経費の削減」(54.8%)、「契約書類の保管コストの削減」(54.1%)が上位に続いた(図1)。

図1 電子契約システムの導入目的

 紙書面の契約で発生する電気代やインク代、郵送費などの諸経費、作成や郵送にかかる人件費や保管費用など、さまざまなコストをペーパーレス化することによって削減したいというニーズが多い。

 契約件数も多いと予測される1001人以上の大企業においては、1000人以下の規模帯と比して「コスト削減」を目的にする割合が高い。また、従業員が多いことで「リモートワークへの対応」(43.6%)といった多様な働き方への対応や「ガバナンス・コンプライアンスの強化」(33.3%)、「内部統制への対策」(25.6%)といったコンプライアンス面でのリスク回避を目的とする割合も高い。前編で触れた通り、導入率が6割近くに上る大企業において、電子契約ニーズが大きいことを再確認する結果となった。

 「導入済み」および「未導入だが導入を検討している」と回答した人に「電子契約システム導入時の重視ポイント」を聞いたところ、「電子契約システムや提供事業者がセキュリティに関する認証や認定を取得している」(29.5%)、「分かりやすいUI設計」(19.9%)、「操作性の良さ」(13.0%)が挙げられた(図2)。

図2 電子契約システムの導入に際して重視する(した)ポイントの1位

導入時や運用開始時で不満がたまりやすい傾向

 次に電子契約システムの満足度を調査したところ、全体では「とても満足」(18.8%)と「まあ満足」(61.5%)を合わせた80.2%が満足している結果となった(図3)。

図3 電子契約システムの満足度

 「満足」とした人にフリーコメントで理由を聞いたところ、「押印のための時間が減った」や「紙の回送が不要」「上位承認の迅速化(業務効率向上)」といった回答が寄せられ、契約締結にかかる時間が大幅に削減できていることに満足している様子だ。

 一方、不満と回答した人は「使い勝手の周知が難しい」や「逆に手順が煩雑になる」など、契約フロー変更に伴う手順や制度の変更、周知の難しさが挙げられた。

 同様の意見は、システム導入時に苦労した経験を聞いた設問でも見られた。具体的には「押印や保管など電子契約運用フローの設計」(31.3%)、「電子契約フローの社内周知」(29.2%)、「文書管理や情報セキュリティ、決裁など電子契約運用に関連する規定の見直し」(28.1%)が上位に続いた(図4)。

図4 電子契約システム導入時に苦労した経験はあるか

 一気に全ての契約書類を変更するのではなく優先順位を付けて段階的に変更する方法を検討してもよいだろう。社内の関係部署だけではなく、取引先や利用者など顧客への周知が必要な点にも注意したい。

電子契約フロー構築の「2つのよくある失敗例」

 電子契約が原因で生じた苦労や失敗事例を紹介する。フリーコメントで寄せられた事例を整理すると大きく2つ意見に集約された。

 1つは「取引先や顧客が利用している電子契約システムとの互換性が悪く、非効率な契約管理になってしまった」という事例だ。

 具体的には「電子契約サービス間で互換性がなく管理負荷が増した」や「締結先の事情で(手続きを)一本化できない」「取引相手先の企業で電子契約ツールの導入・対応が困難なため、十分活用できていない」があった。

 対応例としては「相手先が別のシステムを使っているため、複数の電子契約サービスで管理」や「先方標準の電子契約システム(自社とは異なる)での締結時、社内承認の取得に手間取った」が挙げられ、顧客ごとに対応することで社内負担が大きくなっている。

 2つ目は、前項でも挙がった、導入時に生じる一時的な混乱だ。

 「電子契約導入前の契約書の調査が大変」や「紙での契約から変更したので、最初は手続きに少し戸惑った」のような導入準備にかかる手間や、「全社で電子契約の対応フローを統一したことで、部門独自の対応をしていた部署からは慣れるまでに時間がかかることなどへの不満があった」など、運用開始時に生じるの混乱への対応はどの企業でも一定の経験しているようだ。

 以上、前後編にわたり、企業における電子契約の利用実態を紹介した。システムを活用した電子契約フローの見直しは労力がいるものの、運用している企業からは「使い始めは大変だが、慣れると紙ベースよりも使い勝手がとてもよい」といった声が多く寄せられた。

 電子契約システムは、導入時に苦労するが得られる効果も大きい。今回のような調査や事例を参考に電子契約の必要性を見つめ直し、場合によっては計画的に導入するのもよいだろう。

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