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人事のプロが解説する「人材マネジメント」の7つのツボ

人材マネジメントとは、「管理」や「育成」と捉えられることがしばしばだが、人材の統制を取ることが本質ではない。人事のプロがあらためて人材マネジメントの基礎を解説する。

» 2022年03月03日 07時00分 公開
[指田昌夫キーマンズネット]
壺中天 坪谷邦生氏

 「人事とは、人を生かして事を成すこと。人を犠牲にしてでも事を成す、ではありません。人は元気に生きているが事が成されない、という状態も違います。『人』と『事』を同時に実現することが人事です」と切り出したのは人材マネジメント支援を中核事業とする壺中天(こちゅうてん)の坪谷邦生氏(代表取締役)だ。

 同氏は大学を卒業後SIerに就職し、エンジニア職を経て25歳で人事部に異動した。人事マネジャーとしての経験を生かしてリクルートマネジメントソリューションズに転職し、人事コンサルタント、人事顧問として50社以上の人事制度を構築、企業の組織開発を支援してきた。

 本稿は、坪谷氏が考える「人材マネジメントにおける7つのポイント」について解説していく。なお、坪谷氏個人の見解をまとめたもので、正解は一つではないことをあらかじめご了承いただきたい。

本稿は、オンラインイベント「SmartHR Next 2021|人材マネジメントが創るVUCA時代の経営」(主催:SmartHR)における壺中天の坪谷邦生氏による講演「人材マネジメント入門 〜理論と実践 7つのツボ〜」を基に編集部で再構成した。

坪谷氏が考える「人材マネジメントの7つのポイント」

 以下の図は、坪谷氏が考える「7つのツボ(ポイント)」をまとめたものだ。以降では、この7つのポイントを基に、人材マネジメントの本質を探る。

坪谷氏が考える「人材マネジメントの7つのツボ」(出典:壺中天提供の資料)

1.マネジメントとは何か?

 この問いに対して坪谷氏は「組織が成果を出すために『なんとか』することだ」と語る。ここで気を付けたいのは、マネジメントと「管理」と異なり、混同してはいけないことだ。

 坪谷氏は「管理とは、ある基準から外れないように全体を統制することを指す。基準から外れていればノー、合っていればイエスというだけだ。基準が正しいうちは効率がいいが、世の中の基準が変わった時にはうまくいかなくなる。『何が起きてもなんとかする』というマネジメントとは違う」と語る。

2.そもそも「人材マネジメント」とは何か?

 坪谷氏は「人材マネジメントとは、米国で発祥した人に投資するマネジメント手法のこと。HRM(Human Resource Management)の日本語訳だ」と話す。

 米国では1960年代に企業の国際的な競争力が低下し、マネジメントの変革に迫られた。旧来の労務管理手法を刷新し、新たな方法として編み出されたのが人材マネジメントだ。労務管理との最大の違いは、人材をコストでなく投資対象と考えることだ。

 坪谷氏は自身の見解として、「人材を人的資源と考えず、一つの才能(タレント)として見ている。人材を『人財』と書く人もいるが、私は、この字を使う場合は人を財産、宝物のように大切に扱う考え方だと理解している」と述べる。

3.人材マネジメントの目的とは?

 この質問について、坪谷氏は「人を生かし、短期的、長期的に組織のパフォーマンスを向上させること」と説明する。

 「人材マネジメント論(人的資源管理論 )を専門とする学習院大学の守島基博教授は、人材マネジメントの目的は、『経営×短期』『経営×長期』『人×短期』『人×長期』の4つだと述べる。経営と人、短期と長期をマトリックスにして、その全てを実行することだとする。短期的な目標管理で人と組織のパフォーマンスを上げ、長期的なリーダー育成も行う。人に対しては短期的な評価とともに、人材育成を長期的に支援する。この4つの中心にあるのが人材マネジメントだ」(坪谷氏)

4.人材マネジメントは何によって構成されるのか?

 坪谷氏は、「人材マネジメントは人事評価や報酬、等級、リソースフロー、人材開発、組織開発の6つの要素がそれぞれ組み合わさったものだ。これは、私がリクルートマネジメントソリューションズで人材マネジメントを実践の場で学ぶ過程で編み出したものだ」と説明する。

 人材マネジメントの中心になるのは、人事評価だ。「人事評価の目的は、『やってもやらなくても同じ』という悪平等をなくすこと。そこから等級や報酬、人材開発の各要素が決められていく」(坪谷氏)

人材マネジメントにおける6つの構成要素(出典:壺中天提供の資料)

5.効果的な人材マネジメントを行う上で重要なことは?

 この問いに対しては「環境への適応性と施策の一貫性が重要だと考えている。なぜ今、この施策を行わなければならないのかを説明すること、そして、全ての施策が一貫していなければいけない」と坪谷氏は回答する。

 例えば、社長が「うちの会社は頑張る人が報われる会社だ」と従業員に言ったとする。この時、従業員の努力を支援する仕組みがあれば、納得できるだろう。しかし、幹部社員が社長の縁故の人で固められているといった実態があれば「うそだ」となってしまう。

 「言動が食い違った時、人材マネジメントは全ての価値を失う。私が人事コンサルタントだった時、この一貫性を守るために何をすればいいのかを常に考えていた」(坪谷氏)

6.これから人材マネジメントはどうなる?

 坪谷氏の答えは「不易流行」だ。つまり、本質は変わらず、新しい流行を常に取り入れていくのだと語る。

 「人材マネジメントのトレンドは、過去の伝統に起因するものが多い。例えば『マインドフルネス』は2500年前の仏教からのもので、アジャイル開発の一要素である『スクラム』は、野中郁次郎氏による製造業の研究から始まった。流行は時代ごとに起こるが、原理原則は変わらない」(坪谷氏)

7.あなたの会社の人材マネジメントにおいて、大切にしていること(方針・ポリシー)は?

 最後は、イベント参加者から寄せられた勤務先のポリシーを坪谷氏が読み上げ、コメントした。それらを「企業規模」と「人材の流動性」の2軸で分類し、トヨタ自動車やリクルート、サイボウズ、アカツキなどの企業を例に挙げて次のように説明した。

 「サイボウズは100人100通りの働き方を追求し、アカツキは自社の成長と企業とのつながりを重視している。リクルートは従業員一人一人が起業家精神を持つことを重視し、トヨタは中長期の視点で人材育成に力を入れている」(坪谷氏)

 講最後に坪谷氏は、「人事は人を生かして事をなす。まずは、あなたが自分自身を生かすことからはじまる」と語ってイベントを締めた。

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