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「SAP」の事例、比較、解説記事を総まとめ

「SAP」に関する最新情報を紹介します。IT担当者やITを活用したいビジネス/バックオフィス部門の担当者に、役立つ製品・サービス情報や導入事例、業界動向を集めました。

SAPのERPとは

ERPパッケージの原点ともいえるSAPのERPは、約40年の歴史を通して世界トップランクの市場シェアを維持してきた。2014年にConcurを買収するなど、現在、クラウド型ビジネスソリューションの拡充に注力している。SAPグループが提供するSaaS製品は中核製品であるERPを中心に、CRM、人事管理、人材調達、経費精算などと多岐にわたる(続きはページの末尾へ)。

SAPが提供するERP製品の特徴とそれぞれの違い

 SAPはERP関連製品を複数リリースしている。それぞれの製品の特徴や違いを解説する。

RISE with SAPの基本

 ERPのクラウドシフトが急速に進む中、2021年にSAPが発表した「RISE with SAP」はこのトレンドをさらに加速させる。RISE with SAPの基本やクラウドシフトを後押しするサービス「SAP Business Technology Platform」を紹介する。

 SAPは同社が「Intelligent Enterprise」と呼ぶ、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、アナリティクスなどの最新技術を活用して、ユーザー企業の従業員の生産性を高め、予測に基づく先見的なビジネスを可能にすることを戦略として掲げている。

 プラットフォームからビジネス・プロセス管理に至る部門横断的な数々のソリューション提供に及ぶが、コアとして位置付けられているのがERPだ。RISE with SAPは、SAPが掲げる「Intelligent Enterprise」の実現を加速するサービスとして生まれた。

 例えば、業務の現状と改善余地について把握するための「Discovery Report」により既存ERPデータを分析し、課題発見を手助けする。システム移行においては、アドオンされた開発コードの解析をする「Custom Code Analyzer」や、移行準備のための技術情報を提示する「Readiness Check」が利用できる。それらの結果を基に、自社最適な形でS4/HANA Cloudを設定し、運用するためのインフラサービスも用意される。

 つまりシステム面から、従来は膨大な負荷がかかるポイントになっていた業務分析とシステム改善アセスメントを効率化し、その上で新プラットフォームのERPが利用できるというわけだ。

 多様なパートナー企業と連携可能なビジネスネットワークや、他の業務システムと連携にしたり機能拡張したりするための基盤「Business Technology Platform:BTP」も提供されている。

RISE with SAPで提供される「BTP」とは

 BTPは次のようなポイントを実現するとSAPは示す。

  • アナリティクス、データベース、データ管理機能:エンドツーエンドのデータマネジメントを通してDXに必要な構成データの準備と統合を可能にする
  • インテグレーション:システム間にまたがるエンドツーエンドの業務プロセスを豊富なプラグインや定義済みアセットによりシームレスに統合する
  • 拡張や開発:アドオン拡張や連携アプリをローコード/ノーコードで効率的に開発可能
  • インテリジェントテクノロジー:AIや機械学習、RPA、チャットbot、IoT、ブロックチェーンといったインテリジェントテクノロジーの活用で、効果が高く高度なDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援

 ERPである以上、既存業務が効率化しなければ導入・移行の意義は薄い。マッキンゼーが2020年に日本企業に向けて公開した緊急提言「デジタル革命の本質:日本のリーダーへのメッセージ」では、デジタルで生み出される価値の7割は既存事業の変革により生み出され、残りの3割が新規のディスラプティブなビジネス創造から生まれるとの推定が語られている。

 DXは新たなビジネスモデルを生み出す側面に脚光が当てられがちだが、実際には既存事業をデジタルで変革することによって生まれる価値のほうが大きいというわけだ。

 経済産業省の「DXレポート」で示された「2025年の崖」はレガシーシステムの運用をこのまま続けると運用コストが増して最大年間12兆円の経済損失が生まれると警鐘を鳴らしたが、そこで意識されたレガシーシステムにはR/3を含むサポート切れ間近のERPも想定されている。

 これらの点も考え合わせると、まずはレガシー資産の束縛から抜け出し、既存業務の効率化を図ったうえで、新技術を活用した新ビジネスモデルを構想できるERPでなければならない。

SAPのSaaSを一部紹介

 SAPグループが提供するSaaS製品は中核製品であるERPを中心に、CRM、人事管理、人材調達、経費精算などと多岐にわたる。この中でもクラウドERP「SAP S/4HANA Cloud」、クラウド型のBIツール「SAP Analytics Cloud」、CRMの「SAP C/4 HANA」といった事業と密接に関わる業務システムにフォーカスし、それぞれのソリューションの特徴などを紹介する。

SAP S/4HANA Cloud

 S/4HANAはSAPが開発したインメモリデータベース「SAP HANA」の高速性を引き出すために、従来のSAP ERPソフトウェアのデータ構造やプログラムコードなどに変更が加えられたERPソリューションだ。

 過去のSAPのERP製品は、大量の商品情報や数量、価格などのデータはHDDに保存されていて、読み出しに時間がかかっていた。そのため、集計テーブルなど中間データの格納スペースが設けられていた。企業の成長に伴い処理件数が増えると、その分ERPが抱える全体のデータ量も膨らむが、インメモリデータベースのSAP HANAにより処理速度が向上した。S/4HANAでは中間のテーブルを置かなくても、元のデータを直接読み込むことで同等の処理をより高速に終わらせることができる。結果的に基幹システム全体のデータ量を小さくできるため、コスト削減にも貢献する。

 S/4HANAにはオンプレミス版に加えてクラウド版「SAP S/4HANA Cloud」(プライベートクラウド型、SaaS型)もあり、SaaS型であればインフラを含めた導入コストも抑えられ、SAPによれば「コストから見てSAP ERPの導入が難しかった年商250億円規模の企業でも導入が可能だ」という。

 SaaS型のS/4HANAは、基本的にはSAPが用意する機能やインタフェースをそのまま使用することを前提としている。これは業務要件に機能が合致しているかをみる「Fit&Gap」とは対照的である「Fit to Standard」の考え方に基づいたものだ。「ABAP」(SAPシステムの開発に用いられるプログラミング言語)による複雑なカスタマイズ開発によりシステムを変えるのではなく、常に最新の機能が提供されるクラウドアプリケーションに業務を合わせるという考え方だ。SAPの顧客企業の中には、SaaS型S/4HANAの導入を機に、従来の業務プロセスそのものを見直そうという企業もあるという。

 またグローバルで事業を展開する企業を中心に、本社部門のERPは従来のままで、海外子会社の基幹システムはSaaS型のS/4HANAを使うといった「二層ERP」の形態を採用するケースもあるという。さらに、海外子会社でのSaaS型S/4HANAの導入を機に、最終的に本社部門のERPもクラウド型に切り替えたという例もあるようだ。

 SAPはSAP ERPのサポート期限を2027年末まで延長すると発表したが、複雑化してしまった業務プロセスに課題感を持つ企業は、サポートの期間終了を待つことなくいち早く基幹システムの見直しに着手しているという。SAP ERPを使い続けているユーザー企業は、期限が延びて一安心ということでなく、今後のビジネス展開の道筋を見据えた上で自社に合った基幹システムの在り方をあらためて考える必要があるだろう。

SAP Analytics Cloud

 まずはBIの「SAP Analytics Cloud」だ。SAPのアナリティクス製品の特徴は大きく2つあり、1つ目は予算計画管理、予測分析、そしてデータの可視化(BI、ビジネスインテリジェンス)に関する3つの機能を単一のプラットフォームで利用できること。2つ目の特徴は、経営層やビジネスマネジャーがすぐに使えるダッシュボードのテンプレートを備えていることだ。

SAP C/4HANA

 SAP C/4HANAは2018年にリリースされたSAP製品の中では比較的新しいソリューションだ。Customer Experience(以下CX)を改善するCRM(顧客管理)とマーケティング、コマース、顧客サービスなど5つのクラウドアプリケーションで構成されるスイート製品である。これらの5つのアプリケーションによって、顧客接点から受注までのフローをカバーする。

 SAPは長年にわたり、ERPによって財務・会計、在庫、受発注など企業のバックオフィス側のデータの一元化と、リアルタイムのデータ共有を推進してきた。それに対して、CRM(顧客管理)、営業、マーケティングなどフロントオフィス側の情報は、業務ごとでアプリケーションが分散していた。SAP C/4HANAはバックオフィスと同様に、フロントオフィスのデータを統合することを主眼に置いたソリューションだ。

 加えて、SAPのフロントオフィスソリューションの中核となる製品が「SAP Customer Data Cloud」だ。SAPが2017年に買収したGigyaのID管理技術を基に開発した製品である。ECサイトと実店舗、Webサイト、スマホサイトなど、チャネルごとにバラバラで管理されることの多い顧客IDを統合し、企業としてユーザーに統一したサービスを提供をするための基盤である。

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